アカデミー賞にノミネートされること5回。そのうち『グローリー』で助演男優賞、『トレーニング・デイ』で主演男優賞。名実ともにハリウッドでトップの座についているデンゼル・ワシントンに、またしてもアカデミー賞の呼び声があがっている。最新作『フライト』で見せた見事な演技である。
「私はこんな役が大好きなんだ。白黒はっきりしているようなキャラクター、つまり善と悪がすぐに色分けできるような人間には興味ない」
デンゼルがそうきっぱり言いきっているように本作の主人公である旅客機のパイロット、ウィトカーは一筋縄ではいかないキャラクターだ。パイロットとしての腕は超一流。だからこそ、操縦不能な状態に陥っても不時着し犠牲者を6名に留めることができる。だが実はアルコール依存症を患っていて……そんな状況からウィトカーを描くドラマが始まるのだ。デンゼルがどんな人物像を作りあげているかと言えば、まさに玉虫色。善とも悪とも言いきれない人物であり、それでいて強烈な存在感とカリスマを感じさせる。
「こういう脚本と、最高の監督によってスペシャルな旅に連れて行かれたような気持ちがしたよ。なぜスペシャルかというと、自分をさらけ出し、ダークな場所へと行かなきゃいけないからだ。これは役者としては最高に楽しい旅なんだ」
ちなみに、その「最高の監督」とは、本作で12年ぶりに実写映画に復帰したロバート・ゼメキス。彼もまたデンゼルの演技を「素晴らしかった」と絶賛する。
「依存症の演技で何が一番役立ったか白状するとYouTubeの動画だよ。“酔っ払い” で検索するとごまんと出てくる。これが最高の教科書だった、いや、ホントに(笑)」
このユーモア感覚。それもデンゼルの魅力であり、本作の魅力にもなっているのだ。
『ぴあ Movie Special 2012-2013』より
『フライト』
3月1日(金)全国ロードショー