(左から)久石譲、山田洋次監督

映画『東京家族』で初めてタッグを組んだ山田洋次監督と作曲家の久石譲が1月25日、久石が招聘教授を務める国立音楽大学にて250名の学生を前に行われたトークセッションに出席。映画や音楽を巡る現状について熱く語り合った。

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山田監督が監督生活50周年記念作品として、現代の家族の在り方を問うた本作。1月19日に封切られ、この日で観客動員数は50万人を突破した

音楽家の卵である若者たちを前に山田監督は「音大というのは憧れの場所。今日は久石さんの“伴奏”のようなものです(笑)」と語る。今回、監督作品81作目にして初めて久石さんに音楽を依頼したが「もちろん(久石が担当した)作品は拝見していましたし、ぜひ一度、お仕事させていただきたいと思ってました。映画音楽は映画が好きな人じゃないとダメなんです」と念願かなってのタッグ実現を嬉しそうに振り返った。だが映画監督にとっては音楽家との仕事はなかなか気疲れするもののようで「最終的なイメージは作曲家の中にあるんでね。とても気を使うんです。お見合いのようにドキドキします」と語る。

一方の久石は今回の仕事について「苦労しましたよ!」と告白。「普通、2時間の映画にだいたい50分から60分くらい音楽が付くんですが、今回は2時間半くらいの映画で音楽は25分くらい。平均して40秒から50秒くらいの曲が多いんです。短い音楽を書くのは難しいんです」と述懐する。しかも監督からは「空気のような音楽」というリクエストがあったとか。久石自身、何度か撮影現場に足を運びつつイメージを膨らませていったそうで「芝居の邪魔にならずにそれでもどこかで共存するものとして考えました。いかに薄く書くか? でも痩せちゃいけない…。工夫する中で新たな発見がありました」と明かす。

映画音楽の在り方について山田監督が「映画音楽を学ぶ場や研究する人がいないのが不思議」と語ると久石は「論理的、学問的にやらないとムードで曲を付けることになってしまう」と深くうなずく。さらにいまのテレビドラマやアメリカの大作映画の音楽について久石は「画面をなぞっているような音楽が多すぎる。ハリウッドは特に最悪」と辛辣な言葉を浴びせる。「情報を知ることで物事を知ったと勘違いしている」という久石の嘆きに山田監督も大いに賛同し「情報という言葉が映画を貧しくしている。いまの安っぽいドラマは情報だけで成り立っている」と語り、情報をただ伝えるのではない情緒や感情があることの重要性を学生たちに説いた。

この日は学生たちからの質問にも答え、行き詰まったときの打開方法を尋ねられると山田監督は「しょっちゅうそんなことばかりです」と苦笑。「『それでいい』と言えるものが見つかるまで粘るのが監督。『そうじゃない』と言い続けて最終的に『それだ』と言い切れるのが監督というものの才能だと思います」と持論を述べた。

久石は本作のために書いた楽曲「東京家族」を自らピアノを演奏してチェロ奏者の花崎薫とのセッションで披露。山田監督は「映画の画面が浮かんできます」と目を細めていた。

『東京家族』
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