『ライフ・オブ・パイ』日本語版キャストを務めた本木雅弘

公開中の映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が好調な動員を記録している。名匠アン・リー監督が送り出した本作は各映画賞で高い評価を獲得し、米アカデミー賞では11部門にノミネート。さらに世界興収が5億ドルを突破している。なぜ、本作はここまで世界の観客を魅了したのだろうか? そこで本作の日本語版キャストを務めた本木雅弘に本作の魅力を語ってもらった。

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本作は、動物園経営者を父に持つ16歳の少年パイ・パテルが船の事故に遭い、どう猛なベンガル・トラと小さな救命ボートに乗り込んで227日にもおよぶサバイバル生活を展開する様を、美しい自然の風景を交えて描き出した感動作だ。

『ライフ・オブ・パイ』は極めて芸術性の高い主題と表現を備えた作品だが、3D映画として製作され、小さなアート・シアターではなく全世界の映画館で上映され、多くの観客を集めている。本木は「それこそがアン・リー監督のバランス感覚のすごさでしょう」とした上で、「監督は本作で3Dの技術を使いこなすことに成功しています。その上で、作品に普遍的なメッセージを盛りこみ、ある種の哲学的な問いかけをして観客に考えさせる」と分析する。「原作小説にも書いてあったのですが、“目に見えている世界”がすべてではなくて、見えているものをどう捉えて、どう理解するか?が人に何かをもたらす。それは時に絶望になり、時にかすかな希望になる。そのことがとてもリアルに描かれているから、観客も映画を観ながら一緒に心の漂流ができるんだと思うんです」。

そんな作品で本木は大人になったパイ・パテルの声を演じた。映画は彼の回想で綴られるため、ひとりの登場人物でありながら、映画全体の“語り”も務める重要な役どころだ。本木は「(パイ・パテルを演じた)イルファン・カーンさんの味わいが100点だとしたら、私の声は40点ぐらいかも」と謙遜するが、「吹替の魅力は、字幕を追わずに済むので映像の力をダイレクトに受け取ることができること。この作品は、 映像の臨場感に煽られながら物語に入り込むのが一番なので、まず吹替で観ていただいて、次に役者の声や息づかいも感じられる字幕版で細部まで確認してもらえたら」という。

本木がひとつの作品にじっくりと取り組み、真摯に役と向き合うことはよく知られているが、本作についても「この物語の何が真実で、どこが幻想で、どこまでを真実と捉えるのか、まだ考え続けている」と言う。「この映画を通じて、自分自身と対話する中で何を感じ取れるのか、そして、それが実人生にどんな影響をもたらしていくのか、そこからまた何かが生まれていくのだと思います」。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
公開中