鈴木浩介   撮影:源 賀津己 鈴木浩介   撮影:源 賀津己

近年では映像での活躍も目立つ鈴木浩介が、シス・カンパニー公演『今ひとたびの修羅』に出演する。尾崎士郎の長編小説『人生劇場』を原作に、劇作家の宮本研が戯曲化した1985年初演作品だ。劇団☆新感線の人気演出家・いのうえひでのりが久々に外部演出に臨むほか、堤真一、宮沢りえをはじめとするキャスト陣の顔合わせも注目されている。

『今ひとたびの修羅』チケット情報

昭和初期、任侠道を貫こうとする男たちの意地と、女たちの命がけの愛が交錯する情愛の世界。原作はたびたび映画化されているが、演劇史に残る名作『美しきものの伝説』で知られる宮本が脚本を手がけたこの舞台版は、抗争に明け暮れる「任侠もの」というよりもラブストーリーとしての密度が高い。その中にあって鈴木は、当時の世相を反映する社会運動家・横井を演じる。「警察に追われているのに仲間の留守宅に勝手に上がり込んでご飯を食べて無断で金を借りて帰る、そんな男です」。大胆不敵で辛辣、だが理想に燃える活動家像は現代にあってはなかなかリアリティを持ちにくいが、「稽古の前に大杉栄に関する本は読んでおこうかなと。“役作り”なんて大層なことではなくて、当時の活動家のテンションを知るヒントになれば、という程度ですけれど」。

何よりも楽しみにしているのはいのうえの演出を初めて受けること。これまでは鈴木勝秀や長塚圭史など、役者自身が自由に試す演技の中から演出家がピックアップして構成していく芝居作りに参加することが多かった。「いのうえさんは細かい動きに至るまで演出をつけていく方と聞いています。自分で毎日膨らませていくのも楽しい作業なんですが、役者としてはまた違うアプローチの演出も経験してみたい。新感線は音楽も照明もショーアップされたイメージなので、いのうえさんがこの戯曲をどう立ち上がらせてくださるのかも興味深いです」。

劇団青年座の出身とあって、舞台に対する愛着は深い。トレードマークのメガネと濃厚な役柄でドラマに数多く出演し、バラエティ番組で活躍する現在も、舞台出演はコンスタントに続けている。近年は男優4人のみで数十役を演じ分けた『叔母との旅』、テネシー・ウィリアムズの名作『ガラスの動物園』で演じた主人公の友人役などで深い印象を残した。「稽古だけでは気づかなかった世界を、本番でお客さんと共有する瞬間があって面白いんです。お客さんのリアクションで、それまで意識しなかったセリフが急に気になったり。“これだ”という確信めいたものがあるわけではありませんが、やっぱり舞台が好きですね」。いのうえ演出のもと、舞台役者・鈴木浩介の多面性を見せてくれそうだ。

4月5日(金)から4月29日(月・祝)まで、東京・新国立劇場 中劇場にて。一般発売は2月16日(土)より。

取材・文:市川安紀