さいたまゴールド・シアター『ルート99』稽古風景 撮影:宮川舞子 さいたまゴールド・シアター『ルート99』稽古風景 撮影:宮川舞子

蜷川幸雄の呼びかけにより、55歳以上の一般人から結成された劇団、さいたまゴールド・シアター。1200人を超える応募者の中から厳選された40名以上の劇団員たちが活動を続けて、早5年になる。つまり、ジャンルや職業を問わず、あらゆる集団が5年間で経るのと同じだけの季節を、彼らも過ごしてきている。これまでの経験が何をもたらしたのか。その答を求め、12月6日(火)に幕を開ける第5回公演『ルート99』の稽古場を取材した。

さいたまゴールド・シアター『ルート99』公演情報

物語の中では、様々な議論が交わされる。たとえば、舞台設定である島を広く占める基地について。その島を貫く国道「ルート99」沿いでばらまかれた「島まんじゅう」について。その事件を機に姿を消した若者と、彼周辺の恋模様について。あるいは島に公演をしにやってきた劇団員たちが交わす演劇論、社会論、そして人生論。特筆しておきたいのは、岩松了の書き下ろしによる今回の戯曲は、登場人物たちが「高齢である」との設定を排しているという点だ。一部を除いては、どんな年齢層の俳優が語っても成り立ちうるセリフだからこそ、問われるもの、際立つものがある。劇中に登場する劇団の名が「ゴールド・シアター」ということもあり、「岩松さんの台本は、わざとこんなふうに書いてるんじゃないかと思う場面がたくさん。不意なひと言に、時々泣かされちゃうんだ」と蜷川。

稽古が始まった。以前は、ひと息でセリフを言い切ることも危うかった面々が、岩松独特の軽妙でテンポ良い会話の応酬を繰り広げている。思い知らされたのは、言葉と動作を同時に操るのがいかに高度なことであるかということ。たとえば、どうしても言えないセリフがひとつあるとして、何度目かのトライでうまく言えた瞬間、今度は身体の動きが違ってしまう。動きを直すとセリフがあやしくなり、セリフに集中すると動きに無理が出る。両者のバランスがとれるまで、蜷川と俳優たちは何度でも繰り返す。俳優というのは、与えられたことをその通りに果たすことが第一の職務であり、それは経験や年齢に関わらない。つまり、蜷川はまぎれもなく、彼らと、プロフェッショナルとして向き合っているのだ。

だから稽古場は実にスリリング。細やかなトーンやニュアンスが、俳優たちの身に深く染みこむまで、蜷川は次に行かない。そして唐突に思いついてしまった、大がかりなアイデア。思わず一瞬フリーズしたスタッフに、蜷川は言う。「大丈夫。始めから、あきらめないで!」。不屈の世代の全力投球が胸に迫った。

さいたまゴールド・シアター『ルート99』は、12月6日(火)から20日(火)まで彩の国さいたま芸術劇場 小ホールにて上演。チケット発売中。

取材・文:小川志津子