『メモリーズ・コーナー』(C)NOODLES PRODUCTION.FILM ZINGARO 2 INC..FRANCE 3 CINEMA.2011

阿部寛が西島秀俊、國村隼らとともに出演した2011年のフランス映画『メモリーズ・コーナー』がようやく日本公開。本作でなんと亡霊の役に挑戦した阿部が、2000年に神戸で行われた貴重な撮影を振り返りなから作品の魅力を語った。

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映画は、1995年の阪神・淡路大震災から15年以上経った神戸と淡路島を舞台に、震災を回顧する式典に参加したフランスの女性ジャーナリスト・アダと通訳の岡部(西島)、震災 の辛い記憶にとらわれて死後もなお現世に留まる阿部の演じた石田が、それぞれに愛を求めて彷徨う姿を描き出した不思議な味わいの作品だ。

本作が デビューとなる女性監督オドレイ・フーシェは、是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』(2008年) に出ている阿部を観て、石田役にはこの人しかいないとオファーしてきたようだが、阿部も「フランス映画への出演なんてそうそうない貴重な経験だから、台本がほぼない状態のときに『やらせてください』と返事をしました」と振り返る。「それで来日した監督とお会いしたときに、彼女が小林正樹監督の『怪談』(1965年)に興味を持たれていて、現世と来世を往来する輪廻転生的な映画を撮ろうとしていることや僕の役が亡霊ということが徐々に分かってきたんです」。

多彩な役を演じてきた阿部もさすがに亡霊役は初めてだったが、「監督から事前に言われた『怪談』と『雨月物語』(1953年/監督:溝口健二)、 『二十四時間の情事』(1959年/監督:アラン・レネ)などを観て、なるほどこんな感じか? と思いながら撮影に入りました」と言う。そして「石田は家族に対する想いを亡霊になってから強くしたと思うんです。その強い想いをアダと岡部の心に置いて去っていく役どころをあまり亡霊ということを意識しないで演じようと心がけました」。

さらに 「アダを演じたデボラ・フランソワ(『ある子供』(2005年)、『譜めくりの女』(2006年))からもすごくいい刺激を受けました。外国人は日本人とのあ・うんの呼吸みたいなものが、通用しないから必然と芝居も変わってくる」。そして完成した作品を観て本作の魅力に改めて気づいたと告白する。 「観れば観るほど脚本がよく練りこまれていることがわかる。亡くなった人の報われない想いが地面の中にエネルギーとして吸収され、それが地震になるという観念的な表現やあのラストシーンは日本人には描けない。映像も神戸の街が外国に見えたぐらい画の深さを感じたし。いずれにしても、自分のキャリアの中でも異質なこの作品がいま公開されるのはとても嬉しいですね」。

『メモリーズ・コーナー』

取材・文:イソガイ マサト