熊川哲也 K バレエ カンパニー『シンデレラ』  撮影:小川峻毅 熊川哲也 K バレエ カンパニー『シンデレラ』  撮影:小川峻毅

昨年2月に世界初演を果たし、全12公演が完売した熊川哲也版『シンデレラ』が、待望の再演となった。語り継がれてきた優しい夢色のおとぎ話に、プロコフィエフの流麗かつ活気ある音楽が綴られて、世界中の演出家が改訂を試みている。シンデレラの孤独と夢の扉を開く瞬間までが描かれた、公開ゲネプロ(第1幕のみ)取材の様子をお届けする。

熊川哲也 K バレエ カンパニー『シンデレラ』チケット情報

衣裳デザイナーはお馴染みのヨランダ・ソナベント。ダンサーの美しさが引き立つ繊細なデザインに目が奪われる。レズリー・トラヴァースが手掛けた舞台装置は、いにしえの香りを保ちつつも、斬新な空間を創りあげ、現実と非現実の世界を完成させている。

幕開け冒頭から意地悪なふたりの義姉がシンデレラを挟んで、キレのあるダンスを繰り広げ、観ている者を一気に舞台へと引き込んでいく。義姉たちより更に強烈なのが、男性ダンサーが演じる継母。美しくあるべき姿とは外見ではなく、心の美しさだと熊川版では語られている。醜悪な姿をした老婆が訪ねてくるが、冷たくあしらう継母たちに対し、みすぼらしい衣服をまとったシンデレラは、温かい暖炉のそばにこっそり招き入れて、心からのもてなしをする。その優しい心に応えるように、老婆は美麗な仙女に変身し、シンデレラが持つ美しさのすべてを開花させるべく、夢の世界を魅せる。身の周りの風景が一変し、バラやトンボにキャンドル、ティーカップなどが妖精になって踊りだす。第1幕のクライマックスは、銀色に輝くかぼちゃの馬車と、プリンセスに変身したシンデレラの幸せに満ちた笑顔。そして、憧れの夢へと続く宮殿の扉が開き、シンデレラストーリーへの余韻を残して最初の幕が降りる。

このバレエ最大の見どころである第2幕舞踏会の場面では、シンデレラの登場から流れてくる透明感に満ちた幻想的なワルツにぜひ酔って欲しい。王子役の宮尾俊太郎は、「この完成された演出、ファンタジーをリアルに表現しているこの世界で、お客様の誰もが納得して頂けるような王子を踊りたいと思います」と話し、シンデレラの日向智子は、「シンデレラが辛いときでも、健気に頑張っている表情を魅せられるように、精一杯踊りたいと思います」とアピール。かすかな表情ひとつにもこだわった熊川の演出は、ディズニー映画を初めて目にしたような小さな子供にも、容易に届く楽しさがある。シンデレラの真心に贈られた幸せな夢に共感し、温かい心を持ち帰れるだろう。

公演は3月6日(水)から10日(日)まで、東京・オーチャードホールにて。

取材・文:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)