宝塚歌劇宙組『モンテ・クリスト伯 宝塚歌劇宙組『モンテ・クリスト伯』 撮影:三上富之

身に覚えのない罪を着せられ、孤島の監獄に投じられた青年が、怒りと憎しみの炎を燃やす復讐劇『モンテ・クリスト伯』。これまでにも幾度となく映画化、舞台化されてきた名作が、宝塚歌劇でミュージカル化。宙組公演として、3月15日、兵庫・宝塚大劇場にて開幕した。

宝塚歌劇宙組『モンテ・クリスト伯』のチケット情報

舞台は19世紀初頭のフランス。皇帝ナポレオンが失脚し、エルバ島に追放されていた時代。若き航海士エドモン・ダンテスは、恋人のメルセデスと結婚式を挙げ、船長への昇進も決まり、と、幸せの絶頂にあった。しかし、そんなダンテスを妬んだ同僚のダグラール、恋敵のフェルナンに、ナポレオン派のスパイだと密告され、検事補ヴィルフォールによって投獄されてしまう…。

“愛とロマン”を根底のテーマに置いて作られる宝塚作品の中でも、物語の大半で嫉妬、怨恨、復讐などが描かれた本作は異色の作品。男役トップスター凰稀(おうき)かなめ演じるダンテスの圧倒的な存在感が、舞台に緊張を走らせる。フェルナンと結婚したかつての恋人メルセデスをも恨み、愛することも愛されることも、笑うことも失くし、「憎しみが生きる証」だと放つダンテス。凰稀はそんなダンテスの狂気を、哀しみを滲ませながら演じる。メルセデスに再会し、愛と憎しみの狭間で揺れるダンテスの切なさは、こちらが息苦しさを感じるほどだ。

悠未(ゆうみ)ひろ演じるダグラール、朝夏(あさか)まなと演じるフェルナン、蓮水(はすみ)ゆうや演じるヴィルフォールの3人は、自分の欲望や自分を守ることしか頭にない人間。そんな中で、緒月遠麻(おづき・とうま)演じる密輸船の乗組員ベルツッチオだけは、復讐心に満ちたダンテスを救おうと必死。ほかの登場人物に熱がないだけに、彼の想いはより一層温かさを感じさせる。メルセデス役の実咲凛音(みさき・りおん)は、ダンテスへの一途な想いと、息子を守るべくダンテスに挑もうとする覚悟をしっかりと表現。復讐と愛、そして希望がうまく絡み合った、宝塚らしい『モンテ・クリスト伯』に仕上がっている。

第2部の『Amour de 99!! -99年の愛-』は、かつての演出家へのオマージュで構成された作品。写真や言葉で演出家の紹介をしながら、レビューを展開していく。凰稀が公演前に「太鼓が似合う男役になりたい」と語っていたように、アフリカンやラテン系の力強いダンスも多く、クールビューティーな雰囲気とは異なった、新たな魅力を発揮している。ほかにも、凰稀が“パイナップルの女王”に扮し、スラリと長く美しい脚を披露して踊る中詰や、黒燕尾を着た男役の群舞など、目が離せないシーンのオンパレード。宙組の勢いを感じさせるショーが楽しめる。

兵庫公演は4月15日(月)まで上演中。また、5月10日(金) ~ 6月9日(日) まで、東京宝塚劇場にて上演される。東京公演のチケットは4月7日(日)より一般発売開始。

取材・文:黒石悦子