鴻上尚史   撮影:源 賀津己 鴻上尚史   撮影:源 賀津己

鴻上尚史によるプロデュースユニット「KOKAMI@network」の新作『キフシャム国の冒険』は、東日本大震災、そして福島の原発事故が創作の起点となっている。前作『リンダリンダ』の再演でも、新たに原発問題を作品に取り入れた鴻上。この新作で描き出したいことは何か、鴻上に話を訊いた。

KOKAMI@network vol.12『キフシャム国の冒険~The adventure of Kifushamu~』チケット情報

東日本大震災の後、鴻上は福島の地を訪れている。その時、演劇人・鴻上の頭に一つの考えが浮かんだ。「福島の何もない空間を見た時に、まるで現実とは思えなかったんですよね。で、この風景に対抗するためには、もうファンタジーを作り上げるしかないんじゃないかと。しかも生半可ではない、強力なファンタジー」。

この“強力”なファンタジーには、鴻上のある決意が込められている。それは「震災や原発を扱っているからと言って、すべてが許されるわけではない」ということ。政治的なキャンペーンを張るわけでもなく、あくまでエンターテインメントとして、面白い物語を観客に提供する。さらに鴻上は「ましてそういうやっかいな現実を意識する以上、より面白い作品にしないとダメなんですよね」と続けた。

物語は、津波で夫と子供を失った母親が、同じく大切な人(=先代の王)を亡くした、キフシャム国の王子と共に旅に出るというもの。この王子を演じるのが、鴻上とは初タッグとなるKis-My-Ft2の宮田俊哉だ。「宮田くんと王子には、重なる部分があるんですよね。宮田くんは役者として、王子は王として未完成なんだけれど、向かうべきものに対してすごく懸命。小器用じゃないけど、それを上回る熱量があるというか。今回、そういう宮田くんとやれるのはすごく楽しみです」。

「役柄的にも実際に子供がいる人がよかった」という母親役には、「芯があって強い人」と鴻上が評する高岡早紀。ほかにも『リンダリンダ』に続いての伊礼彼方や、「親族代表」のメンバーで幅広く活躍している竹井亮介、鴻上作品には欠かせない大高洋夫など、多彩な顔ぶれが集う。

震災後、エンターテインメントに関わる人間で、一度でも自らの存在意義を疑わなかった者はいないだろう。しかしその中で鴻上は、ある答えを導き出した。「“悲しみを癒す”なんて、演劇には大それたことだと思うんです。でも作品を観ている間だけでも、その“悲しみを休ませる”ことは出来るかもしれない。そして“明日も生きていこう”というエネルギー、希望を与えられたら……。そんな舞台が作れるよう頑張りたいと思います!」

■公演日程
5月18日(土)~6月11日(火) 紀伊國屋ホール(東京都)
6月15日(土)~6月16日(日) キャナルシティ劇場(福岡県)
6月22日(土)~6月23日(日) 森ノ宮ピロティホール(大阪府)
チケット一般発売:3月30日(土)より

取材・文:野上瑠美子