いったいなにがおもしろいのか?

この本を翻訳した大友剛さんは、これまで20回ほど保育園児などを対象にこの『えがないえほん』の読み聞かせをしてきて、ウケなかったことは一回もなかったそうです。連戦連勝ってすごいですよね。

大友さんの読み方がおもしろかったのでしょうか?

大友さんのもとには、大げさに読んでも、平坦に読んでも、効果はそれほど変わらないといった感想が寄せられているそうですから、読み方には関係がなさそうです。

たいしたテクニックも必要なく、ただ文字を声に出して読むだけで、子どもからこんな反応があったら、嬉しくない親っていないと思います。

ただし、そのためには、こんなことも? あんなことまで? なにこれ意味がわからない! というようなことまで、口にしなくてはなりません。

普段は自分たちにあれやれこれやれとうるさく言う大人が、意味不明な変なことばかり言うのが、子どもたちにはおもしろくてたまらないのです。

まず音がおもしろいようですね。

子どもによっては、真似してみたり、文字に対する興味も生まれるでしょう。
集団で聞いてもらえば、さらにおもしろさも増しそうですね。

この絵本を読む上での注意事項としては、「この絵本を読み聞かせするときは地べたに座ってもらうこと」だそう。なぜなら、「笑いすぎて椅子から転げ落ちる子が続出する」からですって!

親としても、これだけの反応を返してくれれば、読み聞かせの苦手意識さえも吹っ飛んでしまうかもしれません。

笑い以外にもこんな効果が

ある会場では、こんなことが起こったそうです。

「ある保育園で読み聞かせをしたときに、あまり表情を変えない女の子が大笑いしているのを見て、保育士さんがびっくりしたと言っていました」

また、親子げんかをした後に子どもに読みきかせをしたら、仲直りができた、というメッセージを読者から受け取ったこともあるとか。

寝る前に読むと、盛り上がり過ぎて眠れなくなってしまうのでは、と一瞬心配になったのですが、大友さんの答えは素敵でした。

「夜でも余裕がある日には何回か読んであげて親子で大笑いしてから眠りにつくのもいいと思います。寝る前の笑いは質のいい睡眠をもたらすという研究結果もありますからね」

外遊びが減り、ゲームやスマホが赤ちゃんの頃から身近にある今の子どもたちにとって、身体を使って何かを楽しむことは貴重な時間です。それに加えて笑いを他者と共有する体験のできるこの絵本、ただのナンセンス絵本ではないとみました。

最後に、この絵本読むことで笑う以外になにか得られることがあるか、大友さんに聞いたところ、

「普段言わないようなことを口にするという“タブー”を少しだけ破ってみることで、大人と子どものあいだの信頼関係を築くことに役立つかもしれないと思います。それはこの絵本が単なる下品な言葉の羅列ではなく、根底に子どもへのリスペクトがしっかりとあるからなのです」

子どもとの距離が一気に縮まりそうなこの絵本、ぜひ実際に手にとってみてくださいね。

【取材協力】大友剛さん
ミュージシャン&マジシャン。
自由の森学園卒業後、アメリカ・ネバダ州立大学で音楽と教育を学ぶ。帰国後、北海道のフリースクールのスタッフとして不登校、引きこもりの若者と触れ合うかたわら、札幌の音楽事務所で作編曲、演奏、CM制作を手掛ける。

2005年よりフリー。音楽とマジックという異色の組み合わせで国内外で活動。又、おおたか静流、中川ひろたか、長谷川義史、室井滋との共演も多い。その他、ピアノ伴奏、マジックの教材制作、講習会、研修会にも力を入れている。

2010年、株式会社Music&Magicを設立。
2011春、NHK教育「すくすく子育て」にマジシャンとして準レギュラー出演。NHK教育「みんなのうた」で2010年2月に放送された『天の川』にピアノで参加。同作品が2011年ニューヨーク映画祭で銅賞を受賞するなど、海外でも高い評価を受けている。