そう思っていた矢先に、それを探る絶好のチャンスが訪れた。1968年の初演以来、美輪が幾度となくタイトルロールの女賊を演じてきた舞台『黒蜥蜴』が5年ぶりに再演されるのだ。
三島由紀夫が江戸川乱歩の探偵小説を脚色した本作の黒蜥蜴は、まさに美輪の当たり役。名探偵・明智小五郎との対決を縦軸に奏でられる狂おしい恋の物語で、深作欣二監督による'68年の映画版では美輪(当時:丸山)のために三島が台本を改稿。舞台では美輪が演出、美術、衣裳も兼任して独自の世界を作り上げているのだから、稀代のアーティストの秘密に迫るのにこれほどピッタリの題材はないだろう。
しかも、さらにラッキーなことに、美輪明宏の洗礼を受けたばかりの人物との接触にも成功。その人物とは、今回の舞台『黒蜥蜴』で俳優デビューを飾る中島歩(なかじまあゆむ)だ。オーディションで約200人の中から黒蜥蜴に拾われ、愛人になる雨宮潤一役に抜擢された中島は、以前はモデルとして活動していた24歳。
美輪本人に「若いころの私にちょっと似ている」と評された美貌の持ち主で、「俳優になりたくてワークショップに参加しつつも、日雇い労働をしながら悶々とした毎日を送っていたところを美輪さんに選んで頂いた僕は、雨宮に少し境遇が似ている」と語る逸材だ。
演技経験はまだほとんどゼロ。だが関係者しか知り得ない、特に同じ舞台に立つ者でしか分かり得ないものがきっとあるに違いない。それは逆を言えば、役者として無限の可能性を秘めた中島が、美輪から何を学び、どんなことを体得したかの証でもある。2つの、ふたりの“真実”を伝える実に興味深いインタビューになった。
まず最初に訊いたのは、オーディションのときのこと。そこで初めて会った美輪明宏に呑まれるようなことはなかったのだろうか?