広末涼子

単に年齢を重ねたことで落ち着きが備わっただけではない。“覚悟”を秘めた人間の発する輝きとでも言うべきものが彼女の佇まい、言葉から感じられる――。昨年公開された『鍵泥棒のメソッド』ではこれまでにないコメディエンヌとしての魅力を開花させた広末涼子。最新主演作『桜、ふたたびの加奈子』では幼い娘を失いながらもその生まれ変わりを信じ、長い時間をかけて再生していく母親を演じ、前作とはまた違った境地を開いた。

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生まれ変わりを描いた作品とあって「最初に脚本を読んだときはファンタジー要素を強く感じた」と明かす広末。彼女自身は「輪廻転生といったことについて、宗教的な意味や実体験で何かがあったわけではないのですが、読み進めながら『あぁ、私はそういうものを信じるタイプなんだな』と思いました。それくらい物語がすんなり入ってきて、現実的に捉えた上で、命の連鎖や希望を感じていただける作品になるのではないかと思いました」と語る。

演じる上ではやはり、娘を失った母親の深い悲しみをどのように表現するかが最大の課題だった。「寂しい、悲しい、苦しい――娘を亡くした母親の立場に立ってみたら、そんなのは当たり前でそれを体現するのが私の任務。その苦しさがあるからこそ、最後に訪れる救いが大きな意味を持つので、それは避けられないものなんだ、と撮影に入る前から覚悟をしていましたが、それでもつらかったです」。

「役柄を日常に引きずるタイプではない」と言うが、今回は時に24時間の中で素でいるよりも役の容子でいる時間の方が長いこともあり「自分の日常や経験とリンクする部分もありましたので、オンとオフをどれほど切り替えようとしても難しかった。葛藤し耐え忍ぶ時間でした」と振り返る。

そうやって、役と自らの垣根が分からなくなるほどに感情を受け止め、没頭したからこそ「出来上がりを見て『こんな顔で泣いている自分を見たことがない』と感じた」と明かすクライマックスのシーンが生まれた。「演じているときも我を失うような感覚でした。どこかで自分と容子が一体化している部分があったのかもしれません」。

30代を迎えて、これまでとは違った楽しみを演じることに見出すようになった。「10代の頃、演じることが自分の“存在価値”だと思い、メッセージ性の強い作品を選んだり、自分がどうなりたいかという視点で考えている部分が多かったと思います。でもいまは、自分が作品の一部であれることを幸せに感じます。表現できることにありがたさを感じますし、だからこそ演じることへの使命感のようなものが生まれてきて…とても楽しいです」。

『桜、ふたたびの加奈子』
公開中

取材・文・写真:黒豆直樹