ハンブルク・バレエ団「ニジンスキー」より (C)Kiran West ハンブルク・バレエ団「ニジンスキー」より (C)Kiran West

世界最高峰のカンパニーとの呼び声高いドイツのハンブルク・バレエ団が、2月に日本公演を行う。バレエ団を率いるのは、現代バレエの巨匠、ジョン・ノイマイヤー。今回上演されるドラマティック・バレエの傑作『椿姫』や、マーラーやバッハの音楽に振付けた大作(ガラ公演『ジョン・ノイマイヤーの世界』でも抜粋を上演)で、日本でも多くの観客の心を捉えてきた振付家だが、さらに注目すべきもう一つの上演作品が、『ニジンスキー』である。「振付家として、私はニジンスキーに感嘆するばかりだ」「初めて一緒に仕事をするカンパニーでは、毎回ニジンスキーのことを思う」というノイマイヤーが、渾身の力と情熱をこめて手がけた意欲作だ。

ハンブルク・バレエ団「ニジンスキー」チケット情報

『ニジンスキー』は、20世紀初頭にヨーロッパで一斉を風靡したバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)で活躍した天才ダンサー・振付家、ヴァスラフ・ニジンスキーとその作品の世界を舞台化したバレエ(2000年初演)。その幕開けは、1919年のニジンスキー最後の公演の場だ。ここでニジンスキーは、自身の人生の様々な場面、舞台を追体験する。彼の前には、興行主で愛人のディアギレフや妻のロモラ、また『薔薇の精』『牧神の午後』『春の祭典』など、ニジンスキーが演じたバレエの登場人物たちが幻となって現れ、やがて訪れる戦争の悪夢の中、彼は次第に狂気にとらわれてゆく──。

米国ウィスコンシン州生まれのノイマイヤーは、小学校6年生の時、近所の図書館でニジンスキーについての書籍と出会い、その魅力に心を奪われたという。「私を惹き付けたのは、舞踊家としてのニジンスキーではなく、人間としての彼の運命だった」ともいうが、『ニジンスキー』で描かれるのは、華々しいスターの肖像というよりもむしろ、栄光と孤独のなかで苦悩する、人間=ニジンスキーの姿なのだ。

ニジンスキー関連品の熱心な収集家としても知られるノイマイヤー。資料の散逸や投資の対象にされるのを避ける目的もあるというが、当時の絵画や彫刻、ポスター、様々な文書を手にするたびに、ニジンスキーの新たな面を見つけ、同時代の芸術家たちが彼をどのように見ていたのか、と思いをはせる。「ニジンスキーは時代──または彼に惹かれていた芸術家たちよりも、はるか先を歩んでいた」というノイマイヤー。『ニジンスキー』は、そんな熱烈な信奉者だからこそ描くことができる、心揺さぶるバレエといえるだろう。日本公演を、大いに期待したい。

ハンブルク・バレエ団2018年日本公演『ニジンスキー』は2月10日(土)から12日(月・祝)まで東京文化会館にて。チケットは発売中。

文:加藤智子