『タイガー 伝説のスパイ』を手がけたカビール・カーン監督

世界一の映画大国インド。その映画産業の中心であるボリウッドの注目作4本を一挙公開する企画「ボリウッド4」が開催されるが、インド映画史上2位の興行収入を記録したスパイアクション大作『タイガー 伝説のスパイ』のカビール・カーン監督が初来日を果たし、作品について語ってくれた。

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『タイガー』に主演したサルマーン・カーンに加え、シャー・ルク・カーン、アーミル・カーンと“3大カーン”と呼ばれる大スターが君臨するボリウッド。「“カーン”はラッキーネーム、ボリウッドの新人はみんなカーンに改名するんだ」と冗談を飛ばすカーン監督だが、出自は社会派ドキュメンタリーで、娯楽志向の強いボリウッドでは異色の経歴の持ち主だ。「確かに僕は変わり種かもね。ボリウッド映画は歌と踊りが付き物だけど、僕の最初の劇映画には歌のシーンがなかったし、二本目もBGMとして使っただけ。だから『タイガー』は僕にとって初めての登場人物が歌い踊る映画なんだ。踊りのシーンを撮るのは好きだよ。ストーリーを邪魔するような使い方はしなかったけどね」。

テロや差別などをテーマにしてきたカーン監督だけに、『タイガー』でもインドとパキスタンの対立の歴史を背景に、互いが敵国のスパイだと知らずに恋に落ちた男女のラブストーリーを描いている。「ボリウッド映画は現実逃避的なファンタジーを売りにしてきた。でも今の観客はもはや現実離れした映画では物足りないし、かといってリアルに徹しても退屈に思われるだろう。だから今回は、インド映画のメインストリームが避けてきた政治的なモチーフに、サルマーン・カーンというスターや『ロミオとジュリエット』的メロドラマを組み合わせてみたんだよ」。

『タイガー』はインドのみならず世界各地でも大ヒット。ドバイでは同時期公開だった『ダークナイト ライジング』を凌いだという。「インド以外の国の人たちにも観て欲しいけど、そのためにハリウッドを真似たりはしない。海外の映画祭に行くと『歌と踊りをカットすればヨーロッパでもウケる』なんて言われるけど、迎合すればボリウッドの良さが失われてしまう。それでもアラブ諸国やアフリカ、アジアの多くの国々でボリウッド映画は支持されているし、なぜかインド系移民がほとんどいないドイツでも人気なんだよね。日本にもボリウッド映画を気に入ってもらえる土壌があると感じているんだ。家族同士の関係や価値観について、インドと日本には欧米よりも親しいものがあると思うからね」。

時代を見据えた新しいボリウッド映画の勃興。世界中で高まっている熱狂に乗り遅れないように、一度その真髄を目撃してみてはいかがだろうか?

『タイガー 伝説のスパイ』
4月20日(土) シネマート新宿ほか全国順次ロードショー

取材・文:村山章