成河  撮影:源 賀津己 成河  撮影:源 賀津己

国際的に活躍する演出家であり俳優のサイモン・マクバーニーが、谷崎潤一郎の小説『春琴抄』『陰翳礼讃』の世界に深く共鳴し、『春琴』として舞台化したのは08年のこと。シンプルな舞台装置をバックに、入れ替わり現れる登場人物や文楽を思わせる人形遣いなどで作品世界を重層的に描いた本作は、再演以降、ロンドンやパリ、台北でも上演を果たして高い評価を得た。最後のツアーとなる今回は、東京と兵庫のほか、NYリンカーンセンター・フェスティバルへの正式招待が決定、更に北米2都市での公演も予定。初演より主演の深津絵里と共に舞台を支えてきた成河(ソンハ)に、本作への想いを聞いた。

舞台『春琴』チケット情報

本作では佐助ほかさまざまな姿で登場している成河。的確な演技力と高い身体能力で野田秀樹や栗山民也ら名だたる演出家の作品に出演してきた成河だが、本作について聞くと、すぐに「僕にとっては“怖い”作品ですね」という答えが返ってきた。「この作品は、日本文化を表現した内容や美意識に貫かれた舞台装置など、そういった点での素晴らしさがまず目に付くかもしれません。でも初演より再演、再演よりも再々演とサイモンが僕たちに厳しく要求してきたのは、演じ手が自らの肉体をもって、どう血の通った世界観を作り上げるかということ。サイモンの要求はものすごく高度で、特に僕は集中砲火を浴びて、やってもやっても否定される。稽古場で何度も吐きそうになりました(笑)。ほふく前進でなんとか本番までこぎつけてきたというのが、正直なところ」と、成河は冗談めかしながらも真剣な表情で語る。

それでも毎回、本番を迎えた時の充実感は格別だと成河は言う。「最初に脚本があるのではなく、原作の小説を何度も読み込んで、キャスト全員で場面ごとにいくつもの“ピース”を作ってから、それを組み合わせていくのがサイモンのやり方。だから、お客様が舞台から受ける印象が毎回変わってくるんだと思います。もちろん今回も、前回の再々演とはまた違う“ピース”が見られるはず。観た後に『あれはこういう意味だったのかな』と想像していただく新たな要素になると思うんです。そこが『春琴』を特別なものにしているんだと感じますね」

春琴ほかを演じている深津に関しては、「見えないところでもがいているのかもしれませんが、僕と違って吐きそうになっているところは見たことがない(笑)。あのクレバーさと、サイモンと渡り合えるほどの強さで何度も助けていただいてます」と笑う成河。「春琴と佐助の関係性を始め、観る側にとっても演じる側にとっても、まさに西欧式の二元論では語れないのがこの作品。ぜひご覧になっていただいて、それぞれに何かを受け取って感じてもらえたら嬉しいですね」。

7月27日(土)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール、8月1日(木)から10日(土)まで東京・世田谷パブリックシアターにて。チケットぴあでは東京公演のいち早プレリザーブを5月12日(日)午前11時まで、プレリザーブを5月14日(火)午前11時まで受付。兵庫公演の2次プリセールを5月12日(日)昼12時より受付。

取材・文:佐藤さくら