パリ・オペラ座バレエ団『天井桟敷の人々』    撮影:瀬戸秀美 パリ・オペラ座バレエ団『天井桟敷の人々』 撮影:瀬戸秀美

フランス映画史上不朽の名作と呼ばれる『天井桟敷の人々』を、当時現役エトワールであったジョゼ・マルティネスの振付により、2008年に全2幕のグランド・バレエとしてパリ・オペラ座が初演した。1830年代のパリを舞台に、天井桟敷まで埋め尽くした観客で賑わう芝居小屋や、猥雑な香り漂う犯罪大通りで交わされる人々の人生が織りなす傑作だ。パリ・オペラ座の本拠地、ガルニエ宮の外では上演不能と言われた作品が、待望の日本初演となり、初日を迎える直前の公開ゲネプロを取材した。

パリ・オペラ座バレエ団『天井桟敷の人々』チケット情報

ゲネプロは初日のキャストで行われ、パントマイム役者バチストにマチュー・ガニオ、美しい女芸人ガランスにイザベル・シアラヴォラ、役者を夢見るフレデリック・ルメートルにカール・パケット、悪党ラスネールにバンジャマン・ペッシュという豪華なエトワールたちが配された。

幕が上がると闇の中に、映画でバチストを演じた役者、ジャン=ルイ・バローのシルエットが浮かび、彼の回想シーンと共に、観客はそのまま犯罪大通りの場面へと誘われる。人々が行きかう芝居小屋の前で、盗みの疑いを掛けられたガランスは、バチストに即興のパントマイムで助けられ互いに惹かれあうが、自由奔放な彼女に魅了されたライバルの存在に翻弄され、結局バチストは自分を恋い慕う座長の娘ナタリーと結婚する。数年後、伯爵夫人となったガランスと息子を持つ身となったバチストは再会し、ふたりは初めて結ばれるが、嘆き悲しむナタリーのためにガランスは身を引く決意をし、カーニバルの喧騒の中バチストに背を向けて立ち去っていく。

音楽はマルク=オリヴィエ・デュパン。タンゴやワルツ、ピアノと弦の旋律が効果的に散りばめられ、バチストとガランスのデュエットではダンスと溶け合った、美しい音楽が使われている。

別日にガランスを踊る、アニエス・ルテステュは、独特のアイデアを凝らした衣裳のデザインを手掛け、特にガランスの衣裳は、モノクロ映画の中から深紅のイメージを見つけ出し、周囲の男性が瞬時に虜となる美貌の女性を創りあげた。

ジョゼはダンサーと観客の距離を縮め、客席も舞台の一部と考えたユニークな演出を試みている。幕間には天井から劇中劇『オテロ』のビラが降ってきて、客席まで観客を迎えにきた役者たちがホワイエに導き、劇の一場面が上演される。先ほどまで舞台上にいたダンサーが、目の前で踊っているという新鮮な喜びは、ぜひ劇場で体感して欲しい。

公演は5月30日(木)から6月1日(土)まで、東京文化会館 大ホールにて。

取材・文:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)