『雨と夢のあとに』 撮影:伊東和則 『雨と夢のあとに』 撮影:伊東和則

柳美里原作の『雨と夢のあとに』を、演劇集団キャラメルボックスが舞台化。7月27日、東京・サンシャイン劇場で初日の幕を開けた。本作は2005年に成井豊、真柴あずきの脚本でドラマ化され、その翌年舞台へ。今回は7年ぶりの再演となる。

キャラメルボックス『雨と夢のあとに』チケット情報

中学2年生の桜井雨は、幼いころに母を亡くし、今はベーシストの父・朝晴と暮らしている。ある日、蝶の採集のため台湾へと出かけた朝晴は、念願だった幻の蝶・コウトウキシタアゲハを発見する。だが捕まえた瞬間、朝晴は穴に落ちてしまい…。数日後、無事に帰国した朝晴。だがその姿は、限られた人にしか見ることが出来ない。というのも朝晴は、雨に会いたい一心から、魂だけが日本へと戻ってきたのである。

娘の雨をひとり残し、死んでしまった父親・朝晴。彼の強い後悔は、肉体を遠い異国の地に残したまま、まるで生きているかのように雨の前に姿を現す。冒頭のこのシーンだけで、いかに朝晴が娘を愛していたかが分かるだろう。雨のため、必死に自分が生きているかのように振る舞う朝晴。だがこの先、自分が雨の横に居られないことも分かっている朝晴。それだけに彼の奮闘、そして雨への愛情の深さが、より切なく胸を打つ。

雨を守りたいと願うのは、決して朝晴ひとりだけではない。朝晴の友人家族や、隣人の暁子らもまた、雨を心の底から大切に思っている。父親のことが大好きな、純真無垢なひとりの少女のことを――。本作は雨と朝晴の家族の物語である。しかしふたりを取り巻く人々も、思いやりという絆で結ばれた、雨と朝晴の“家族”なのだろう。

主人公の雨を演じたのは、雨と同じく中学2年生で、ドラマ『リーガル・ハイ』などにも出演している吉田里琴。確かな演技力と初舞台ならではの瑞々しさが融合し、記憶に残る雨を作り上げた。朝晴役には、劇団のベテランである大内厚雄。不器用な父親像の中に、雨に対する揺るぎない愛情を滲ませる。また朝晴の恩人・霧子を演じたのは、初演に引き続き楠見薫。コミカルで頼れる、心優しい女性を演じさせたら、彼女の右に出る者はいないだろう。

別れはいつだって悲しい。それが親と子であればなおさら。しかしそれまで共に過ごした日々がゼロになるわけではなく、その日々を糧に、残された者は未来へと進んでいかなければならない。舞台上で未来を見つめる雨の目は、希望で光り輝いていた。公演は8月18日(日)まで。チケットは発売中。

なお8月6日(火)からは、5年後の雨を描いた『ずっと二人で歩いてきた』も同劇場で開幕する。

取材・文:野上瑠美子