『アイアン・フィスト』(C)2012 Universal Pictures

音楽や写真、絵画などの異分野アーティストの映画監督への進出は珍しくないが、そこから面白い映画が生まれるケースは、多くはない。餅は餅屋と言われるとおり、100分前後の時間を映像に集中させる技術は映画監督を仕事とする専門家だからこそ持ち得るもので、他ジャンルのアートの感性だけではなかなかフォローできるものではない。そんなワケでヒップホップ・アーティストのRZAが初監督・主演に挑戦した、このカンフー・アクションも最初はなかば懐疑的な目で見ていたが、コレがとんでもない快作だった!

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強奪された金塊をめぐり、無法の街に集まってきたクセ者たちが超人的な技を駆使して死闘を繰り広げる。そんなストーリーはもちろん、鉄の義手を装着しての妙技や、体そのものが鋼鉄と化すファイターの出現など、細かな設定もはっきり言ってB級だが、それを堂々とやってのける思い切りの良さ。クエンティン・タランティーノやイーライ・ロスといったB級の醍醐味を知る鬼才たちがサポートしている効果の表れか、ありえない展開も強引な説得力で押し切る潔さなのだ。むろん、腕切断などの強烈なバイオレンスに抜かりはないし、クセ者ぞろいゆえの群雄割拠の混沌具合もスリリングで、ドラマ的にも目が離せない。

何よりの魅力はカンフーをベースにしたアクションがしっかり撮られていることだ。武術家夫婦によるアクロバティックなコンビネーション技も、刀や仕込み扇子を操る立ち回りも、もちろん素手と素手のぶつかり合いも目を見張るものがある。香港映画界で長年武術指導を手がけてきたコーリー・ユンを迎えたことで、肉体の躍動が遺憾なくとらえられている点は見逃せない。

RZAはカンフー映画をこよなく愛していることで有名だが、ここには往年の武術アクターの起用を含めて彼の夢がギッシリ詰まっている。もちろん夢だけでは映画が撮れないし、自身のビジョンを実現するための手段を知る必要がある。そういう意味では、先述の映画界の先輩たちに助力を仰いだのは正しい選択だったと言えよう。撮りたいものをはっきりと理解している映画監督は新人であっても強いし、なおかつ熱い。

『アイアン・フィスト』
公開中

文:相馬学