キャラメルボックス『ずっと二人で歩いてきた~もうひとつの雨のものがたり~』  撮影:伊東和則 キャラメルボックス『ずっと二人で歩いてきた~もうひとつの雨のものがたり~』  撮影:伊東和則

現在、東京・サンシャイン劇場で上演中の、演劇集団キャラメルボックス『雨と夢のあとに』。そのスピンオフ作品にあたる『ずっと二人で歩いてきた~もうひとつの雨のものがたり~』が、同劇場にて、8月6日、幕を開けた。本作は柳美里原作の『雨と~』の主人公・雨の5年後が描かれており、成井豊の新作書き下ろしとなる。

キャラメルボックス『ずっと二人で歩いてきた』チケット情報

大学入学のために上京し、アパートでひとり暮らしを始めた18歳の桜井雨。隣には栗原雅俊という大学院生が住んでおり、彼の部屋からは懐かしいウッドベースの音が聴こえてくる。ある日、アパートの前で倒れている雅俊を発見した雨。彼を部屋まで運び込んだ雨の前には、かつて死んだ父が弾いていたのと同じようなウッドベースが。雨は雅俊にウッドベースを弾いて欲しいと頼むが、彼はそれを頑なに拒み…。

『雨と~』が父と娘の物語だとすれば、『ずっと~』は兄・優作と弟・雅俊の物語。しかし親を失い、兄弟だけで生きていこうとしたふたりの間には恐らく、普通の家族以上の絆が存在したのだろう。非常に強い兄弟愛で結ばれてはいるものの、それは父が娘をすっぽりと包み込むような愛情ではない。兄が弟を、弟が兄を支えるという、非常に危ういバランスの上で成り立った愛情だ。だからこそ優作の死によってそのバランスが崩れた時、雅俊の心にはぽっかりと大きな穴が開いてしまったのである。

本作の雨の役割は、そんな雅俊の心の穴を埋めること。大切な人を亡くしたという共通点と、彼女自身の優しさ。そして雅俊に対するほのかな恋心が、雅俊に、さらには優作に対してもひと筋の光となっていく。ここで感じるのは、5年前の父の死を乗り越え、雨が大きく成長を遂げたということ。そしてその間、いかに多くの人に愛されて育ってきたかということ。もちろん本作だけでも十分に楽しめる作品であり、雨は非常に魅力的なキャラクターである。だが『雨と~』を観るとそういった発見があり、より面白い。

雨役に抜擢されたのは入団4年目の原田樹里。若手らしい真っすぐな演技が、雨というキャラクターにピタリ合う。雅俊を演じる多田直人は抜群の安定感を発揮。また筒井俊作、坂口理恵が笑いを誘う。そして優作を演じたのは、ゲストの加治将樹。一見粗野だが、実は繊細で弟思いの兄を好演した。

キャストは5人のみ。そのためテンポもよく、しっかりとしたメッセージ性がありながらも、後味は決して重くない。気軽に演劇を楽しめる良作だと言えるだろう。東京公演は8月17日(土)まで。その後、8月24日(土)から25日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。チケット発売中。

取材・文:野上瑠美子