お金より大事なもの、それが「自己内利益」

よし、これで自分も安月給から脱出できるかも! ここまで読み進めてそう決意した人に、木暮さんは最後にある意味どんでん返しとも言えるメッセージを残してくれた。キーワードは木暮さんの造語だという「自己内利益」だ。
 

「給料を上げて、やりたいことができるようになる。これも大事なんですけど、そこで本当に自分が満足していなければなんの意味もない。大切なのは「自己内利益」。それがこの本の最後の主張なんです。

ビジネスの場合、売上以上に費用がかかってしまったら赤字じゃないですか。そんな商売やめちまえって話ですよね。でも労働者の場合、『年収1000万円もらえるなら、なんでもします』みたいな人ってザラにいるんです。お金のために寝る間も惜しんで、心身共にすり減らして……それって結局「赤字」のままなんですよね。それよりは「自己内利益」を高める生き方をした方がいいんじゃないかと思うんです。

極端な話、年200万しか稼げなくても、日々遊んでいるような気分で仕事できるのであれば、その200万円はまるまる自分の利益になる。だったらそのほうがいいんじゃないか。そこに気づいてほしいというのが自分の意見です」
 

日々の生活に追われる中で、やっぱり目先のお金に心を奪われてしまうもの。しかし自分の頭で考えることをせずに、ただ漠然と「給料上がんないかなー」とぼやいたところで、本当の幸せにはほど遠い。

『ずっと「安月給」の人の思考法』は、その刺激的なタイトルとは裏腹に、厳しい現代を生きるビジネスパーソンにとって、実にまっとうで地に足の着いた生きるヒントを与えてくれる一冊だ。まずは本著を読んで、来月の給与明細をじっくり読むところから始めてみるのもいいだろう。そこにはきっと新しい世界への扉が隠されているはずだ。
 


木暮太一さん(経済入門書作家・経済ジャーナリスト)

慶応義塾大学 経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。大学在学中に自作した経済学の解説本が学内で爆発的にヒット。現在は、企業・大学・団体向けに多くの講演活動を行っている。
『伝え方の教科書』(WAVE出版)、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星雲社新書)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイアモンド社)、『学校で教えてくれない「わかりやすい説明」のルール』(光文社新書)など著書多数。