(左から)喜安浩平、吉田大八監督

『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督の初めての舞台作品「ぬるい毒」、同じく『桐島』の脚本を手がけた喜安浩平が脚本を担当する舞台「ショーシャンクの空に」(演出:河原雅彦)がこの秋に上演となる。舞台と映画の違い、互いの作品に対する期待をふたりが語った。

本谷有希子の同名小説の舞台化に挑む吉田監督は脚本も担当したが「これまで舞台の脚本は書いたことがなかった」とあって試行錯誤の連続だったという。「最初は舞台ということを意識して、シチュエーションを絞って書こうとしたんです。でもすぐに行き詰ってしまって…。そこからは映画のつもりで書いて、これをどう舞台に乗せるかは舞台のプロに相談すればいいやって(笑)」。

立ち稽古に入って手応えは? と問うと「そういうこと聞かれると追い詰められる(苦笑)」と顔をしかめ、「正直、目の前のものがいわゆる『演劇』になっていくかどうか、引いて見る余裕もない。それは初めて映画を撮ったときと似てますね」と明かすが、これは吉兆と言うべきか? 同時に映画との違い、舞台ならではの面白さも感じているとも。「映画はOKが出れば終わりだけど、舞台はそうじゃないから、もう1回繰り返したら全く違うものになったりする。映像は一番良いところだけ『いただく』もの。演劇は人と向き合って対話していくことなんだと感じてます」。

世間は『桐島』の監督の次なる一手をワクワクしながら待ち望むが「『桐島』を好きな人がこれを観たら、いろんな感想が出るでしょうね。あまのじゃくかもしれませんが(笑)、期待されてる通りのことをそのままやるのは抵抗がある。どこかで裏切りたいんです。その意味でこのタイミングに本谷さんの『ぬるい毒』を舞台でやるのは生理的にしっくりきます」とイタズラっぽい笑みを浮かべる。

誰もが知る名作を相手に格闘中…と思いきや喜安は「僕が渡されたのは映画ではなくあくまで原作の小説」と冷静。映画の名場面と言われる部分の多くが実は原作にはない脚色であることに触れ、舞台版に関し「映画を観た方にとって、観たことのないシーンがいっぱいある作品になる」と不敵に笑う。

『桐島』で脚本家としての喜安の実力を目の当たりにした吉田監督は「あれだけ有名な映画があって、そもそも不利な戦いを承知で挑んでる」とその“蛮勇”を称え、「喜安さんは自分で演出されることも多いので、僕は喜安さんの作品を観るとき、いつも“喜安さんの世界”として楽しんできた。今回は原作がスティーブン・キング、河原さんが演出という中で喜安さんの色がどう出るのか楽しみです」と期待を口にした。

『桐島』のように鮮やかに残酷に期待が裏切られる瞬間を楽しみに待ちたい。

舞台「ぬるい毒」
9月13日(金)~26日(木)
紀伊国屋ホール

舞台「ショーシャンクの空に」
11月2日(土)~10日(日)
サンシャイン劇場
※ほか地域の公演は公式サイト参照

取材・文・写真:黒豆直樹