(左から)ベネディクト・カンバーバッチ、ビル・コンドン監督

トロント映画祭が、ベネディクト・カンバーバッチ主演作『フィフス・エステート』で開幕した。出演作が3作品上映されるカンバーバッチは、まさに今年の“トロントの顔”だ。

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『フィフス・エステート』は、ジュリアン・アサンジが、機密情報を公開するウィキリークスを設立し、世界を変えていく様子を描くサスペンス映画。ヨーロッパの銀行やアメリカ軍の秘密を次々に暴いたウィキリークスは、世の中に激動を与え、報道の自由に関する熱い論議を提供することになる――。白髪のかつらを使い、オーストラリア人ジャーナリストに「まるでオーストラリアで生まれたみたい」と言わせるほどの話し方で挑んだカンバーバッチのなりきりぶりは、絶賛に値する。

アサンジがあまりに知られている人だったことはプレッシャーだったかと公式会見で聞かれると、カンバーバッチは「それはどうかな」としながらも、「この映画では、むしろ人が知らない、アサンジのプライベートな部分を描こうとした。とくに焦点となるのは、(ウィキリークスのパートナーとなった)ダニエル・ドムシェイトブルグとの個人的な関係だ」と語った。ドムシェイトベルグを演じるのは、ダニエル・ブリュール。映画はドムシェイトブルグの視点から語られるが、それぞれに熱心なリサーチを重ねたカンバーバッチとブリュールは、毎日、ヘアメイクをやってもらっている間に、それぞれが発見した新しい事実をお互いに教え合っては、できるかぎり真実に近づこうとしたという。この役を引き受けるに当たり、カンバーバッチはアサンジ本人にメールをしたものの、彼からの支持は得られなかった。「僕らは、この映画で彼が達成したことを祝福したつもり。彼はすばらしいアイデアを持っていたし、犠牲を強いてまでも多くの腐敗を暴いた。でも、彼がこの映画を観るかどうか、そして観た場合、どんな感想を持つかは、想像がつかないね」。

 このほかにトロントで上映される彼の出演作は、『August: Osage Country』と『12 Years a Slave』 。“トロントの顔”と言われるも、「3つとも全然違う作品で、それらに出演できたことを幸運に思っているよ」と謙虚な微笑みを見せた。

取材・文・写真:猿渡由紀