『マン・オブ・スティール』TM & (C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED. TM &(C) DC COMICS

アメコミのヒーローは基本的に、どこかリアルな人間味を持っている。科学オタクの高校生だったスパイダーマンも、特殊能力ゆえに疎外感を味わうX-メンも、調子に乗りやすいアイアンマンも、欠点ゆえに魅力的で共感できた。そういう意味では、スーパーマンをリアルな人間として描くことは、とても難しい。不器用でこそあれ、勧善懲悪の姿勢に揺るぎはないし、猛スピードで空を飛び、どんな重い物も持ち上げる特殊能力を持つ。絵に描いたような完全無欠のヒーローゆえに、身近なキャラクターとは思えないのだ。それゆえ、これまでの映画化作品でも共感より痛快さに重きが置かれてきたのだが、新たな映画化である『マン・オブ・スティール』は、あえてその逆を突き、リアリティを追求してきた。監督に『ウォッチメン』のザック・スナイダー、製作に『ダークナイト』のクリストファー・ノーランのコンビならば、この冒険に挑む才能として不足のないところだろう。

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彼らが本作でスポットを当てたのは、スーパーマンことクラーク・ケントが、ヒーローとしての役割を自覚するまでの少年~青年期。強大なパワーを持つ異星人の子として生まれ、地球で人間の子として育った彼は、ふたつの自我の間で苦悶し、自分の使命を模索しながら孤独な闘いを続ける。そして、その自分探しの過程で図らずも人を殺すことになり、戦いの中では派手に都市を破壊してしまう。こうなるともはや、今までのクリーンなスーパーマンではない。アイデンティティ・クライシスの真っただ中で周囲を見る余裕がないクラーク・ケントの自分探しの苦悶が、巨大過ぎる力そのままに文明破壊のカタストロフと化す。ヒーローが生まれるまでの産みの苦しみとでも言うべきか。ともかく、こんなにも壮絶なスーパーマンは見たことがない。

これまでの映画化作品にあった快活さはここでは封印されており、どちらかというと『ダークナイト』のようなシリアスかつ重厚なドラマに近い。いずれにしても、清く正しく超強い過去のスーパーマン像を求めるのは誤りで、ここはまっさらな気持ちで触れてみて欲しい。そこには、とてつもないスケールの新たな神話が宿っているのだから。

『マン・オブ・スティール』
公開中

文:相馬 学