『凶悪』を手がけた白石和彌監督(C)2013「凶悪」製作委員会

山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーが出演する映画『凶悪』が9月21日(土)から公開される前に本作を手がけた白石和彌監督がインタビューに応じた。

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本作は、新潮45編集部編のノンフィクション『凶悪-ある死刑囚の告発-』を、白石監督が映画化したもの。“明潮24”編集部が死刑囚の告発をもとに取材を続け、ペンの力で警察を動かして凶悪な殺人事件の首謀者を逮捕するまでを描いたドラマだ。山田が事件の首謀者を追うジャーナリスト・藤井を、瀧が死刑囚・須藤を、そしてリリーが事件の首謀者である木村を演じる。

実在の事件を映画化することは難しい。なぜなら映画作りの過程では、ショッキングな事実、痛ましい事実が映画的には“見せ場”になる可能性があるからだ。白石監督は「事件を“面白がることの是非”については悩みました」と振り返る。「事件を面白がることには違和感を感じていて、初めのうちは、事件を面白がって報道するマスコミに対して『そんなんでいいのか?』と問題提起するつもりもありました。でも、作業を進めていく中で、『自分も面白がっちゃっているな、同じことしてるな』と感じてしまった」

その結果、本作の主人公・藤井は“事件の真相”を追い求めながら、同時に妻から“事件を面白がっているのでは?”と追いつめられる。正義のために、真実のために取材を始めた藤井は、いつしか事件に魅了されていく。そこで、本作はあえて“回想”という形式を捨て、過去と現在をシームレスに往復させながら次第に事件にのめり込んで行く藤井の脳内をそのまま映像化した。「回想をやっていくと“過去に何があったか?”が映画のテーマになってしまう。そうじゃなくて“これからどうなっていくのか?”を見せなければいけない。だから回想ではなく、“藤井が取材して、頭の中でまとめていき、紡いでいった映像”として描きました。藤井の紡いでいった映像で事件を描けば、“面白がる是非”がより浮き彫りになっていくだろうな、とも思いました」

ひとりの死刑囚の告白から始まるこの物語は、ひとりの記者を魅了し、いつしか観客をも虜にしていく。極めて凶悪な事件が起こるのはなぜか? そんな事件を人が覗き見たいと思うのはなぜか?「前作で釜山国際映画祭のコンペに参加して、出品されていた作品をほぼ全部見てきたんです。みんな新人だけど、自分と自分の周りと政治に対して切実なんですよ。社会に向き合ってない映画が海外ではむしろない。このままいくと、日本では社会と切り離された映画が増えていくんでしょうね。普通に物語、キャラクターを掘り下げていけば、自然と社会との関係を入れざるを得ない。昔は日本にもそういう社会と密接な映画がたくさんあったのに。僕はそういう映画をつくっていきたいと思っています。“絶滅危惧種”のあがきとして」。

『凶悪』
9月21日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー