他の追随を許さぬ作風で人々の予想を裏切るダウンタウンの松本人志が、最新作『R100』でも特異な世界観の映像化を試みた。監督4作目のコンセプトは“メチャクチャ”だったそうだが、撮り終えた今どういう心境に至ったか? 取材に応じた松本監督に話を聞いた。

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謎のクラブに入会してしまった男(大森南朋)の摩訶不思議な体験を描く本作は、第38回トロント映画祭で好評を集め、北米での公開も決定した話題の一作。“父はM。”のキャッチコピーが語るように、Mの男の日常にクラブの女王様たちが交互に現れては、松本監督が関心を抱いていた“SとM”のテーマを“プレイ”していく構成だ。松本監督は、「今回は、ちょっとメチャクチャしたいなあという想いになって。そのメチャクチャにするためのテーマはなんやろうと思った時、“SとM”が出てきたんですよねえ」と発想の原点を明かす。

実際観ればわかるが、SMプレイ描写をはじめ、映画全体の構造も“メチャクチャ”だ。一切の制約がないかのように自由自在、縦横無尽にカメラを回す、演出を施す、編集を重ね、クライマックスも尋常じゃない。すべてのシーンが松本監督の真骨頂だが、ただ意外にも、本人がもっとも気に入っているシーンは“普通”だった。「片山(大森)がコロッケを買ってずっと踏切を歩いていって、ゴンチチの曲を流している場面。なんてことないシーンですけど、僕の中ではすごく気に入っているんです。ゴンチチ以外は音さえないですからね。でも、わりとこだわったシーンですよ。あんな空気感でいけそうな気がするんですけどね」。

この“いけそうな気がする”とは、次回作以降のこと。監督4作目で“メチャクチャ”をしたかった松本監督は、その『R100』を経て、新たな境地に至ったことを最後に明かした。「ヘンな話、自分の中ですごくスキルアップしたなって思っていて、その経験をもってすれば、けっこういいものが撮れるんじゃないかなあって思いますね。たとえばね、すっごい普通の、たいして何も起こらない映画とか、撮ってみたいなあと思うことはありますね。今までは肩の力が入っていたけれど、まるで変化のない120分とか、どんなものが撮れるんやろうって思ってみたりもしていますね」。すなわち、言い換えれば、『R100』は、現時点での松本監督の集大成ということだ。主人公と同様、その禁断の扉を開いてみては?

取材・文・撮影:鴇田崇

『R100』
10月5日(土)ロードショー