『トランス』に出演したジェームズ・マカヴォイ 撮影:富岡秀次

善良なキャラクターがよく似合うジェームズ・マカヴォイにとって、最新作『トランス』で演じたサイモンはそのイメージを大きく覆す役となった。しかも、彼が「長年のファン」だというダニー・ボイル監督作とのタッグ。絶好の機会によって本人も見たことのないマカヴォイが映し出された本作の魅力を語ってくれた。

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「今まで演じたことのない役を演じることはチャレンジだったよ。最初はいつものような善良なキャラクターを僕が演じているのかなって思うかもしれないけれど、サイモンにシンパシーを感じ始めた頃、彼は観客を虐待するような行動に出るんだ。面白いのは、最初に感じたシンパシーが最後まで残っていること。サイモンがどんなに酷いことをしても善良さが残っている。それは役者としてとても面白い経験だった」

出演したいと思う決め手となるのは「脚本を読んだときの直感」だと言うが、今回の『トランス』に関しては、ダニー・ボイル監督作品であるというだけで「やる気になっていた」そう。実際に脚本を読んで「度肝を抜かれたよ!」と、その素晴らしさを口にする。そして、ダニー・ボイル監督がこの映画に据えたテーマ「人間の記憶と心」については、自身の体験談をもとに、演じたサイモンの苦悩がどれほどのものかを表現する。

「記憶をなくした経験は僕にもたくさんあるよ。お酒を飲み過ぎてしまったときとかね(笑)。記憶のなかに黒いシミのように覚えていない時間があると人はとても不安になる。そんなふうにお酒を飲んでスポット的に記憶をなくしただけで不安になるんだから、人生の記憶の大半を失っているサイモンはどれだけ不安だろうって思ったよ。おまけに彼は記憶を失ったことで性格の一部も失っているようでもあるからね。あと、失いたくない記憶についても考えた。以前、飛行機から(スカイダイビング等で)飛び降りたことがあって、そのときに感じたアドレナリンラッシュと興奮と素晴らしさといったら! 飛んだ後に生きていて良かった、と思った。あの感覚は人生で忘れたくない経験だね」

『トランス』
10月11日(金)全国ロードショー

取材・文:新谷里映