ACTION代表の比嘉セツさん

邦画とハリウッド大作が大半を占めてはいるが、日本はまだ世界各国の映画が観られる環境が維持されている。でも、この映画の多様性が保たれているのは、愛のある映画人の存在によって支えられているといっていい。南米を中心としたスペイン語圏の作品を紹介し続けるACTION代表の比嘉セツさんもそのひとりだ。

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映画マーケットでの買い付けから、配給、宣伝、字幕製作までを自ら手掛ける比嘉さん。その驚きのパーソナリティー力でラテン・アメリカの映画を我々に届けてくれる彼女だが、この道に進むきっかけは1本の映画との出会いだった。「フリーの通訳者として映画と関わる中で、一度、現地の映画祭を体験したくなり、キューバの映画祭に行きました。プライベートなので自腹で(笑)。そこで出会った『永遠のハバナ』に惚れこんでしまい、劇場公開のノウハウもなにも知らないのに有り金をはたいて(笑)、権利を手に入れてしまいました」。

キューバの巨匠、フェルナンド・ペレス監督がハバナの名もなき市民12人の日常を語りもインタビューも一切なしに綴ったこの『永遠のハバナ』を筆頭に、『低開発の記憶-メモリアス-』『今夜、列車は走る』など、比嘉さんが手掛ける作品は我々がラテン・アメリカに抱くイメージを覆すような個性際立つ作品ばかり。今回続けて新たに公開される2本の新作も然りだ。

まず、『地中海式人生のレシピ』はエル・ブリほか、スペインの三ツ星レストランのシェフたちが全面協力した異色の恋愛劇。レストランを持つことを夢見る女性と、それを支えるふたりの男性のドラマが描かれる。比嘉さんは「バルセロナはどこか自由な恋愛観のある土地。そこが加味されたこの3人のちょっとびっくりする関係の行方に注目です」と見どころを明かす。

一方、『シルビアのいる街で』のピラール・ロペス・デ・アジャラがヒロイン役を務める『ブエノスアイレス恋愛事情』は、都会の片隅で生きる男女の出会いの物語。比嘉さんは「主人公の男性はほぼひきこもりで、一流の建築家を夢見るヒロインは現実と理想の狭間で悩む。都会生活者の孤独や苦悩は、実はブエノスアイレスでも東京でもあまりかわらないのかも。そんなことに気づかせてくれるユニークな1本です」と語る。

「ユニークな発想や新たな価値観を持つラテン・アメリカの才能と作品をこれからも紹介していきたい」と語る比嘉さん。この目利きに見初められた2作にぜひ注目してほしい。

『地中海式人生のレシピ』
公開中

『ブエノスアイレス恋愛事情』
11月16日よりK's cinemaほか全国順次公開

取材・文・写真:水上賢治