サントスのラマーリョ監督が「最高のチームに負けたんだから、自分たちの力を理解してまた夢を追いたい」と言えば、10番・ガンソも「負けることは決して気持ちいいものではないが、相手は世界一のクラブ、どうしようもない」と語った。

0-4と完敗を喫したブラジルの名門・サントスの面々は試合後、異口同音に驚きを口にした。「信じられない」「あんなチームは見たことがない」「本当にすごかった」などなど。12/18・クラブワールドカップ決勝を見た、多くの人々もサントスの選手たちと同じ感想を持ったことだろう。それだけ、バルセロナは「あり得ないプレー」を見せた。

かつてバルセロナの関係者は自軍のスタイルについて、「ハンドボールのようにパスをまわしながら、ゴールを奪う」と聞いたことがある。さらに長年、培われたボールポゼッションについては「ボールを持っている限り、相手に点を奪われる心配はない」とシンプルに答えられたことがある。

ただ、サッカーというボールゲームはハンドボールではなく、ボールを足や頭で扱う不確定要素がある。しかも、パス回しにかかわる人数が多ければ多いほど、パスミスによってボールを失うリスクが高くなる。これがサッカー界の共通理解だが、そんな大前提もバルセロナには当てはまらないと証明したことになる。

グアルディオラ監督は試合後、バルセロナがなぜサッカー界の常識を覆すことができるのか、答えた。

「いいプレーヤーが揃っているのが大前提。次に相手を研究し、スペースを使ってボールをコントロールすること。選手たちはボールを奪って、動かして、パスをつなぎ、少しずつ自分たちのチャンスを作っていく。シンプルな話だ」

……。世界中の監督は、その「シンプルなこと」ができずに頭を悩ましている。そもそも、選手たちに臆面もなく「ボールをコントロールし続けろ」なんて支持したら、無能の烙印を押されしまう。試合では相手がいる。自分たちのしたいサッカーをしたいようにできるチームなんて、そうそういない。レアル・マドリードもマンチェスター・ユナイテッドも自分たちのスタイルを貫くことができるが、それは格下のクラブが相手の時だけである。力が同等なチームを相手に、自らのプレースタイルを貫くなんて芸当ができるのは、バルセロナだけしかいない。そう、いつ何時、どこが相手でもバルサはバルサなのだ。

また、グアルディオラは「今日我々は9人のプレーヤーがカンテラ(下部組織)出身だった。自分たちが何を目指しているのかがわかるだろう」とも言った。

そのカンテラ出身の最高傑作と言われるイニエスタも「どこまでいけるかわからないが、いけるところまで自分たちのスタイルを貫いていきたい」と語った。

日本でも若き才能は生まれては消えていっている。世界のトップクラブシーンを見れば、オイルマネーや外資の後ろ盾を得て、世界中から実績のある選手を寄せ集めているのが、トレンドである。

そんな中、バルセロナは10歳前後から「ボールを奪って、動かして、パスをつなぎ、チャンスを作る」という哲学を叩き込まれてきた。現在のバルサには伝説のプレーヤーにして、礎を築いたクライフの名言「1-0で勝つくらいなら、4-5で負ける方がましだ」を超えた、「1-0で勝つのではなく、5-0で勝つサッカー」がある。そして、多くの人はそれを「奇跡のサッカー」と呼ぶ。

あおやま・おりま 1994年の中部支局入りから、ぴあひと筋の編集人生。その大半はスポーツを担当する。元旦のサッカー天皇杯決勝から大晦日の格闘技まで、「365日いつ何時いかなる現場へも行く」が信条だったが、ここ最近は「現場はぼちぼち」。趣味は読書とスーパー銭湯通いと深酒。映画のマイベストはスカーフェイス、小説のマイベストはプリズンホテルと嗜好はかなり偏っている。