『2ガンズ』

デンゼル・ワシントンとマーク・ウォールバーグ。アカデミー賞受賞の名優同士が“相棒”となって、熾烈な40億円の裏金争奪戦をくぐり抜ける痛快アクションが『2ガンズ』。デンゼルとマークの役どころは、麻薬取締局=DEAと海軍情報部というそれぞれが違う組織に所属する潜入捜査官。決して自分の身分を明かすことなく、時には任務のために犯罪行為に手を染める。そんな“危険すぎる”ミッションの日本事情について、弁護士の山脇康嗣先生に訊いた。

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DEA、アメリカ海軍、CIA、マフィアが四つ巴で巨額の現金を奪い合う『2ガンズ』を、山脇先生は「複雑な内容を痛快なエンターテインメントに仕上げたすごく面白い映画」と絶賛。しかも「ストーリー自体もあながち荒唐無稽ではない」という。

「取り締まる側と取り締まられる側の癒着は日本も含めてどこの国でも起きていることで、表に出ない使途不明金は民の世界でも官の世界でも存在するわけです。日本でも、複数の捜査機関、取締機関が別々に同一人物を追うケースはいくらでもあります。お互いにライバル官庁だから、すべて情報共有しているわけではない。例えば警察と厚労省の麻薬取締官はどちらも違法薬物の取締をしていますが、必ずしも協力的な関係にあるわけでもないんです。そこに事実の隠蔽や組織の不当な思惑が絡めば、この映画みたいなストーリーもあり得ないわけではありません」。

日本ではアメリカと違って“潜入捜査”を認める法律はないが、これも現実には起こりうるという。「日本では、おとり捜査に関しては麻薬や銃刀法違反など条件付きで認める法律がありますし、内偵や泳がせ捜査と呼ばれるものも認められています。潜入捜査については、規定する法律がないので、やっていいと明示されてはいない状況です。ただ、だからと言って絶対に行われていないと考えるのは早計。おとり捜査について、判例は、“必要性、相当性、緊急性”の要件が必要としています。しかし、実際には、現場の警察や捜査官の判断でおとり捜査を実行したものの、実は判例の要件を満たしていないといえる場合も、表沙汰になっていないだけで一定程度存在すると考えられます」。

実際に、かつて現場警官だった人物が「上司に命じられて潜入捜査をした」と告白したケースもあって、“潜入捜査”は絶対に行われていないとも違法だともいいきれない」のが現実のようだ。二重のアイデンティティを使い分け、常に命の危険が伴う潜入捜査はエキサイティングなドラマの宝庫。日本でもきちんと法制化、制度化されれば、『2ガンズ』のような潜入捜査官を扱ったエンタメサスペンスがもっと増えてくるに違いない。

※山脇康嗣弁護士プロフィール
多岐にわたる案件を扱うが、入管法や国籍法に関わる外国人の法律問題及びカジノ法制を特に専門とする。第二東京弁護士会国際委員会副委員長。『入管法判例分析』(日本加除出版)、『詳説入管法の実務』(新日本法規)ほか著書多数。映画やドラマの法律監修も多数手掛ける。

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