『ピグマリオン』稽古場の様子 石原さとみ 『ピグマリオン』稽古場の様子 石原さとみ

オードリー・ヘップバーン主演で映画化もされたミュージカル『マイ・フェア・レディ』の原作である戯曲『ピグマリオン』が11月13日(水)より新国立劇場にて上演される。主人公のイライザを演じるのは石原さとみ。平岳大、小堺一機ら実力派が脇を固める。11月初旬、3度目となる通し稽古が行われた稽古場に潜入した。

ロンドンの下町の花売り娘のイライザは偶然、音声学の権威ヒギンズ教授に出会う。彼はイライザの出自を見事にごまかしレディとして舞踏会にデビューさせてみせると友人と賭けをし、自邸にイライザを住まわせて特訓を施すのだが・・・。。

物語の中心は、粗野で無教養なイライザが美しい言葉と教養を身に着け変貌していくと同時に、ひとりの女性として自立心に目覚めていく成長過程だが、このギャップを石原が見事に体現! 序盤では「買っちくりよ大将」「しんぺー(心配)すんなって」とひどい訛りを連発し、大声で笑い、喚き、泣き、思い切った表情で下町育ちの娘を情感豊かに表現する。あまりのはじけっぷりに、演出の宮田慶子が声を上げて笑う姿も。

そんなイライザが大使館での舞踏会のシーンでは、気品あふれるレディに変身。同一人物とは思えない上品さと美しさで場を圧倒する。本番の衣裳を着用していない稽古の段階でも石原の放つオーラは抜群! 宮田が「中劇場なので広い空間を楽しんで存分に使っている」と語る大人数での舞踏も含め楽しみなシーンだ。

そして続くシーンでは彼女に、自立したひとりの人間としてのプライド、自分を人形のようにしか思わないヒギンズに対する怒りと哀しみの混ざった感情が加わる。宮田が「第二の主役」と語る美しい“言葉”を武器にヒギンズを鋭く追い詰めていくさまは女の強さを存分に感じさせ、小気味よくもあり恐ろしくさえもある。

宮田は『マイ・フェア・レディ』と本作の最大の違いを「単なるサクセスストーリーではなく、(舞踏会という)山を登った後の“谷”をいかに描くか」と語るが、石原はもちろん、大きなカギを握るのが男たちの存在。皮肉屋で理屈っぽいヒギンズを演じる平、下品だが人間味あふれる父親役の小堺の熱演からダメな男たちの哀しみが醸し出される。「当時の時代への挑戦として男と女のディベートがある。カップルで見たら『ウチもこないだこんな言い合いしたわ』と思ってもらえる」という宮田の言葉に思わず納得。『マイ・フェア・レディ』よりもさらに大人のための、哀愁と皮肉が漂う寓話に仕上がりそうだ。

『ピグマリオン』は11月13日(水)から12月1日(日)まで東京・新国立劇場 中劇場で上演される。チケットは発売中。

取材・文:黒豆直樹