左:水城卓哉、右:中村恩恵 左:水城卓哉、右:中村恩恵

ヨーロッパを中心にバレエ団やダンスカンパニーで活躍後、活動拠点を日本に移した中村恩恵(めぐみ)。新国立劇場バレエ団やKバレエカンパニーなどに作品を数多く創作提供している、注目のダンサー・振付家だ。今回、2017年に新国立劇場で初演し高評価を得た『ベートーヴェン・ソナタ』を、長く交流のある神戸の貞松・浜田バレエ団とタッグを組み「新たな楽しい工夫で」関西初演する。ベートーヴェンの11楽曲を使用、ふたりのダンサーで1役を演じ、ベートーヴェンの人生と恋を描く画期的な作品。中村は創作の経緯や思い、またベートーヴェン役のダンサー・水城(みずき)卓哉が意気込みを語った。

貞松・浜田バレエ団「ベートーヴェン・ソナタ」チケット情報

ベートーヴェンの演奏会で観客の感動に触れた中村が「既に亡くなっているのに、今も彼の精神は生きていると感じた」のがベートーヴェンを主題にした創作のきっかけだった。舞台上には1脚の椅子。天井から白い布が配置され、その前後の世界で構成。始まりはベートーヴェンの葬儀から。プロローグだけモーツァルトの“レクイエム”、あとは1幕に6曲、2幕に5曲のベートーヴェンの楽曲に乗せて、彼の生涯を描く舞踊作品だ。中村は「己の命に向き合い、その定めを受け入れていく過程を描いた作品」とも。

登場人物はベートーヴェンのほか、彼と関わりの深かった3人の女性。キモは2人1役で表現するベートーヴェン。中村は、ベートーヴェンが日記の中で自分自身に『お前』と語りかけて書いていることに着目した。そこで「生き様を見つめ、『お前』と語りかける」ルートヴィヒ役に、貞松・浜田バレエ団の芸術監督・貞松正一郎。「かつて音楽を作り、愛し、傷ついて生きていたベートーヴェン自身」を水城。その「対話のような構成」でふたりは踊る。水城は「稽古中に今まで聞いていた音楽がより鮮明に、解像度が上がっていく体験をしています。自分たちの踊りを通して、皆さんにもその体験をしていただけるよう頑張ります」と力強く語る。

また、音楽は生演奏でなく特別録音。中村の意図は?「『スプリング・ソナタ』のバイオリニストの方は自殺されています。美しい音楽をこんなに楽しく弾いているのに。今、私たちは残された音楽を聴き、ダンサーは生き生きと踊る。その人の人生が悲しい終わり方であっても、音楽の力を、そのエネルギーを、今の人たちに与えてくれる。そんな人間の在り方に私はすごく心を打たれていて。もしこの作品が、観ること聴くことで深い苦しみから立ち直る力を持てたら素晴らしい。今を生きる弱き人々に届く何かが生まれたら素敵だなと思っています」。

公演は、7月16日(日)、17日(月・祝)、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて。チケット発売中。

取材・文:高橋晴代