『キャプテン・フィリップス』撮影中のポール・グリーングラス監督

2009年4月にインド洋でソマリア海賊の人質になりがらも、奇跡的な生還を果たしたコンテナ船のアメリカ人船長リチャード・フィリップス。彼の壮絶な回顧録を映画化した『キャプテン・フィリップス』のポール・グリーングラス監督が初来日し、11月29日(金)の公開を前に製作の裏話や映画作りのポリシーを語った。

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グリーングラス監督は『ユナイテッド93』『グリーン・ゾーン』などの実録社会派映画の名匠であり、マット・デイモン主演の『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』を大成功に導いた活劇派のヒットメーカーでもある。今回の最新作でも持ち前の圧倒的な“臨場感”を映画に吹き込むため、原作の回顧録に記されていたフィリップスの妻のパートをばっさりとカット。シージャック事件発生からアメリカ海軍による救出作戦が繰り広げられるクライマックスまでを、怒濤のノンストップ・アクションとして映像化した。「最初の脚本はフィリップス自身と(アメリカに残された)妻の苦悩の体験で構成されていたが、私が描きたかったのはあくまで“海上で何が起こったのか”ということ。それから3、4か月のリサーチ期間をもうけて実際の事件の情報を収集し、海上の出来事に絞った新たな脚本を仕上げていったんだ」。

極限のリアリティを追求するためセットやCGに頼らず、全編の75%を海上に浮かぶ船でのロケによって撮影。しかし「実際の環境を再現して撮ったほうが、観客にそこに居合わせているかのような感覚を伝えることができるから」と語るさすがの監督も、不安定で狭苦しい救命艇のシーンの撮影では想像を絶する困難に直面した。撮影監督バリー・アクロイドを含むスタッフが荒波に揺られ、次々と現場で船酔いしてしまったのだ! 「これは私のキャリアにおいて最も体力的に過酷な撮影だった。でも、海上でこんなグラマラスで華麗な経験をしたおかげで、クルー全員が一丸になれたんだ(笑)」。

初めて組んだフィリップス役のトム・ハンクスの演技力と役者魂を「ブリリアント!」と絶賛する監督。そして若いソマリア人の海賊4人の描写に関する質問には、巨匠、黒澤明へのリスペクトを添えて次のように答えた。「今回の初来日にあたって、クロサワの映画に思いを馳せているんだ。クロサワの映画では善と悪だけでなく、道徳的な曖昧さが描かれている。クロサワと自分を比べるつもりは毛頭ないが、私も彼のような偉大なる映画の匠の足跡をたどりたい。海賊は明らかに悪人だが、彼らの犯罪の曖昧な部分も表現したかったんだ」。

『キャプテン・フィリップス』
11月29日(金)全国公開