映画『利休にたずねよ』で主演を務めた市川海老蔵

歌舞伎俳優の市川海老蔵が主演作『利休にたずねよ』の公開を前に、取材に応じ、自身にとっての“映画”のあり方を語った。

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映画出演は『出口のない海』、『一命』に続き3作目。「自分は映画というフィールドで、自由に旅をしているような感覚。普段なら接点のない方々と会えるし、長い時間をかけて、ひとつの役柄を掘り下げることもできる。歌舞伎は1か月で15役くらい演じますからね」と映画への思いを明かしている。

映画は時の権力者をも恐れさせた茶人・千利休の人間性にスポットをあて、日本芸術史上唯一の殉職となった切腹にまつわる真相を重厚に描き出す歴史ミステリー。田中光敏監督が、『火天の城』に続き山本兼一氏の直木賞作品を映画化した。海老蔵は、今年2月に亡くなった父・市川團十郎さん(12代目)と最初で最後の映画共演を果たした。

当初、田中監督からの熱烈オファーを「利休のような偉人は演じられない」と断り続けていたという海老蔵。しかし、“人間・利休”が浮かび上がる原作や脚本に目を通し「泥を吸ってでも美しい水を吐く蓮のような、パッションあふれる利休像に惹かれた。『だから、僕に演じさせたいんだな』とも思ったし、まあ、監督に口説かれちゃった面も強いですよ(笑い)」と振り返る。

映画が描く利休像については「美の探究者ではあるが、それしかできない不器用な男でもあると思う」と海老蔵。一方、自身は歌舞伎の世界に留まらず、“表現者”として映画をはじめ、さまざまなジャンルに挑み続けている。「梨園から足を踏み出し、多様な芸術性に触れ、そこから吸収しないと、最終的に伸び悩んでしまう。そもそも“歌舞く”べき我々が、狭い視野で『これが歌舞伎でござい』なんてカッコ悪いですから」(海老蔵)。特に映画は「世の中を知る一番の近道だし、お客様が身銭を切るという意味では、歌舞伎に近い」と語る。

来年には『一命』の三池崇史監督と再タッグを組む『誰にもあげない 真四谷怪談』(東映配給)の公開も控えている。鶴屋南北作の歌舞伎狂言『東海道四谷怪談』を新たな切り口で描き、現実と劇中劇がクロスオーバーする野心作。共演は柴咲コウで、海老蔵にとっては初の現代劇映画になる。市川海老蔵の銀幕を歩む“旅”は続く……。

『利休にたずねよ』
12月7日(土) 全国ロードショー

取材・文・撮影:内田涼