マーケティング的なウェルビーイングへの違和感

──「ウェルなわたし」では、多様なウェルビーイングを読者とともに考えることをコンセプトにしています。エスベンさんが考えるウェルビーイングとはどんなものでしょうか?

Hygge(ヒュッゲ)という言葉を聞いたことはありますか?広義の意味で「心地良い空間」や「楽しい時間」というニュアンスを持つ言葉です。

以前、あるデンマーク人の学者が「ヒュッゲとは不安がない状態ではないか」という提起していて、その解釈が個人的にウェルビーイング的でお腹に落ちるものでした。

日本のメディアではヒュッゲについて、「キャンドルを灯してお酒とおつまみでリラックスする夜」や「バスソルトで贅沢」などのマーケティング的なワードとして使われることが多い印象です。

もちろん、社会に経済は欠かせないのですが、本来のウェルビーイングの意味としては「不安がなくて、真に今を生きている状態」が中心にあるべきだと思うんです。

キャンドルやおつまみを楽しむことが心地良い体験になることは素敵ですが、物を入り口にウェルビーイングを目指すのは順番が逆なのではと違和感を抱きます。

── 確かに、ウェルビーイングが「状態」を指す言葉である以上、その効果が一時的で消費されてしまう「物」を中心に考えるのは、本質的ではないですね。

はい。「一時的」や「一過性」といのは大きなキーワードだと思います。極端な例を取るならば「TikTokをたくさん見ることがウェルビーイングに繋がるか」という話です。

その瞬間は楽しいけれど、長期的な気持ち良さではないので根本的な幸せとは違います。

目の前の世界や「今」に集中するマインドフルネスとも通じることですが、現代のSNS社会には、家族団欒や自然とのふれあいなど、根本的な楽しさを忘れさせてしまう側面もあるように思います。