撮影/木村直軌

映画『ミステリと言う勿れ』が公開中だ。

原作は、田村由美の同名人気コミック。2022年1月クールに連続ドラマとして放送され、大きな話題を呼んだヒット作が、スクリーンに舞台を移し、さらにスケールを増して帰ってきた。

その中で、新たな出演者のひとりとして名前を連ねるのが俳優の松下洸平だ。キーパーソンを演じる松下に、公開後の今だから話せる役への想いを聞いた。

※この記事は、本編の核心に迫るネタバレが含まれています。未見の方はご注意ください。

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朝晴には、愚かで、ちょっと情けない人でいてほしかった

撮影/木村直軌

シリーズ最大級の新たな謎と呼び声が高い通称“広島編”。

代々、遺産をめぐる争いで死者さえ出るといういわく付きの名家・狩集家。その因縁を証明するかのように、汐路(原菜乃華)らの親を乗せた車も崖下に転落、命を落とした。

はたしてこの遺産相続事件の真相はどこにあるのか。久能整(菅田将暉)の辿り着いた答えは、150年前から受け継がれてきた呪いのバトン。そこでキーパーソンとなるのが、代々、顧問弁護士として狩集家に仕えてきた車坂義家(段田安則)の孫・朝晴(松下洸平)だった。

自分の重ねてきた罪を告白する朝晴は、愚かで、哀れで、だけど吸い込まれるほど無垢だった。松下洸平はこの難役にどのようにアプローチしていったのだろうか。

「代々信じ継がれてきたことを遂行したまでだ、だから自分がやったことは悪いことではないというのが彼の言い分ではあります。でもはたして本当にそれだけなのかな、と台本を読んだときに思ったんです。人を殺めることが罪になることくらいは、彼も当然わかっている。彼の中にも罪悪感や後ろめたさは絶対にあって、だからあの場でジタバタあがこうとしたんだろうなと」

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社

松下洸平は、まるで役との距離を冷静に測るように、そう話しはじめた。

「整くんも『悪事と思っていないなら隠すことはないはずです』って言ってますよね。あそこで朝晴は『そうだ、自分は悪いことはしていないんだ』とハッとする。あれも100%本心でそう言っているというよりは、どこかでそう自分に言い聞かせているところが絶対にあるはずで。、そのせめぎ合いをしっかりと表現したかったんです。朝晴には、愚かで、ちょっと情けない人でいてほしかったから、その塩梅についてはたくさん考えました」

家同士の宿命に取り憑かれた狂人ではない。あくまで、生身の人間として朝晴を生きようとした。

「事件が起きたことを汐路のせいにするのも、そうすることで自分がやったことから逃げ切りたいという気持ちがあった気がするんですよね。朝晴が単純なサイコパスに見えないように、というのは意識して芝居に臨みました」

汐路にとって、朝晴は初恋の人。その好意につけ込むように、朝晴は彼女の心に呪いの言葉を残していく。

「朝晴は汐路に『僕に嘘をつくなんて悲しいよ』と言う。あの言葉も汐路を傷つけるための言葉であったと同時に、本心で悲しんでいると思ったんですよね。朝晴が犯行について語る場面は、本編の中ではたぶん10分くらいだと思うのですが、その10分の間に、いくつもの顔を見せたいと思っていました」