7月に日本初上演となるピューリッツアー賞受賞作『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』。歌舞伎界の新鋭・尾上右近が翻訳現代劇に初挑戦することでも話題のこの作品は、翻訳・演出を手がけるG2が、その戯曲に惚れ込んだことからスタートした。人間を丁寧に描くエンターテインメントの名手は、何を届けてくれるのか。

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2012年のピューリッツアー賞戯曲部門賞を受賞した本作は、ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』の脚本を担当したキアラ・アレグリア・ヒュディスの手によるもの。描かれるのは、イラク戦争でのトラウマを持つ帰還兵エリオット(尾上右近)をめぐる人々の物語だ。自らもドラッグ中毒者であり中毒者たちのサイトを運営しているエリオットの母。離婚調停中のエリオットの従姉妹。そして、サイトに集まってくる人種も年齢も職業も様々な人たち。人生に行き詰まった彼らが、葛藤しながらも立ち直り、つながろうとする姿に、G2は希望を見たのだという。

「第一印象として、人間関係の描き方が新鮮でとてもロマンチックだなと思ったんです。インターネット社会の闇の面が取りざたされることが多い今、この本にはそれが一切ない。異なる人間たちが同じ問題について喧々諤々言い争ったり共感したりしながら、やがて現実世界へつながっていく。しかも、それがワールドワイドに行われているのがいいなと思うんです。西海岸のサンディエゴ、東海岸のフィラデルフィア、主人公家族の故郷であるプエルトリコ。それから、日本の北海道まで登場するのが何とも身近に感じられる。登場人物は3人のプエルトリカン、黒人、白人、日本人なんですけど、それぞれのエピソードにも、“そんなことがあるんだ!?”と発見をもたらしてくれる新鮮さがあって。観終わったあとにはカタルシスを感じられると思うんです」

さらに魅力に感じたのが、「どう演出していいかわからない(笑)」ところだと言う。「旧来のドラマツルギーで構成されているのではなく、いろんなスケッチがコラージュされているような新感覚の戯曲なので、“舞台の上で一生懸命生きる”みたいなことだけでは作れない気がするんですね。僕自身も役者も感性を磨いて、その人間関係が醸し出す空気感とかをなんとか探り出し提示していく必要があるなと。役者がそこにいれば“わかる”という感覚になる。そういう演劇ならではの宝物がいっぱい詰まっている本なので、それを掘り出すべく格闘したいです」と語るG2。また新たな名作に出会えそうだ。

公演は7月6日(金)から22日(日)まで、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて。チケットの一般発売は4月21日(土)午前10時より。なお、チケットぴあでは二次プレリザーブを実施中。受付は4月8日(日)午後11時59分まで。

取材・文:大内弓子