匠くんというアニキができた

撮影/河井彩美

――お互いに相手が演じたキャラクターと重なると感じるところはありますか。

岐洲:土岐と倫太郎はまんまだと思います。もちろん違う人間ですけど、明るさとかパワーだったら倫太郎のほうが強いくらい。そのぐらい現場ではずっと明るかったです。周りのみんなにエネルギーを与えていたし、僕ももらっていました。

八村:匠くんは一緒にいて安心するし、僕からすると“お兄ちゃん”みたいな要素もあって。

岐洲:そうだ。「アニキ!アニキ!」って呼んでくれてた(笑)。一緒にお風呂に入る約束をしていたときに、「打ち合わせがあるのでちょっと行ってきていいですか?」って言うから、僕らが泊まっていた場所に掘りこたつがあったので、そこに入って待っていたんです。そしたら1時間半くらい帰って来なくて(笑)。

八村:ホント、申し訳なかったです。

岐洲:そのときに「すいません!アニキ」って言ってて(笑)。僕は台本を読む時間ができて良かったんですけど。

八村:でも全く“待ってた感”みたいのを出さなくて。

岐洲:気持ち的には待ってた感覚はなかったから。

八村:ホントにそういう感じを出さないのが素敵だなって。けど、それ以外にもお風呂を待たせてしまったことがあって。

岐洲:あったっけ?

八村:そのときは、僕がオンリー(撮影後にあとから声を入れる作業)をやっていて、すぐに終わると思っていたら2時間弱くらいかかって。

岐洲:そうだ(笑)。あと、ダンスの練習もしてたよね。

八村:僕がWATWINGのツアーがあるのに全く練習ができていなかったから、撮影が終わったあとに練習をしていて。「ごめんなさい、匠くん。踊るのでお風呂待っててもらっていいですか?」ってお願いをして。

よくよく考えたら別々で入ればいいことなんですけど、2人で一緒に入ることを大切にしていたんです。そしたら匠くんが「それなら見てるよ」って言って、僕が踊っているところの写真を撮ってくれたりもして。僕には姉がいるんですけど、お兄ちゃんはいないから。

岐洲:顔がそっくりなお姉さんがいるんだよね。

八村:そう。女装をするとめっちゃそっくりだったという(笑)。だから、アニキが欲しかったんです。そこに匠くんというアニキができて。その安心感とか、頼りがいがあるところとか、温かさとかが、土岐が佐原に対して感じているものと一緒なんじゃないか?って思ったんです。なのでその感情を上手くお芝居でも使わせてもらいました。

撮影/河井彩美

――原作で好きなシーンやセリフはありますか。

岐洲:体育祭の借り物競争で土岐が「好きな人」って書かれた紙を引いて、それを佐原に見せて「一緒に来てくれ! ゴールしようぜ!」っていうシーンは好きでした。過去を引きずって迷っている佐原と、全く迷いのないピュアで真っ直ぐな土岐が印象的でした。

八村:僕は1巻にある、ドラマでも1話で出てくるんですけど、「好きな物は好き。それの何がいけねぇんだ」っていうセリフを言うシーンを見て、「土岐をやりたい」と思いました。

撮影/河井彩美

――原作があるキャラクターを演じる上で心がけたことはありますか。

八村:誤解を恐れずに言うと、僕は敢えて原作を読み込み過ぎないようにしました。それは僕にとっては原作に対するリスペクトでもあるんですけど。

漫画を実写化する上で、100%再現することはどうやったって難しいじゃないですか。原作が好きな方は、どうしてもそれぞれの中にあるフィルターを通して見てしまうと思うので、僕が原作通りの土岐奏をやろうとしても、絶対にたどり着けない。八村倫太郎が演じている以上、土岐のどこかに僕の要素は入ってしまうので。

だから、原作ファンの方からしたら「マジか?」って思うかもしれないですけど、原作をリスペクトはしても追い過ぎないことは、僕の中では一つのこだわりでもありました。

岐洲:実は僕も同じような意識でした。だから原作を読んだときは、自分が演じるという視点からではなく、一読者として読みました。原作にとらわれ過ぎずにやろうと思っていたので。

八村:それについては2人でも話しました。

岐洲:お風呂に入りながら(笑)。

八村:原作通りにするのがいいのか、自分たちが佐原、土岐を演じる中で感じたものを出すほうがいいのか。そこでお互いに近い考え方だったのがわかって。

©「佐原先生と土岐くん」製作委員会・MBS

岐洲:それで言うと、佐原と土岐がグータッチを交わす場面があるんですけど、それがリハーサルでは原作の動きとは全然違っていて。そしたら監督が「違うから」って。

八村:監督がここは大切な場面だから原作通りにやろうと。

岐洲:そうやって僕らは自分たちが感じた佐原と土岐を演じつつも、監督が原作に沿うようにしてくださっていました。監督自身はすごく原作を読み込んでいて、形とかにもこだわって演出をされていました。

八村:原作にとらわれてしまうと、「このシーンはこういう表情をしよう」とかって事前に考えてしまうんです。でもその表情は僕が感じたものから出たものではない、作り物になってしまう。だから、僕が感じて出したものが原作と一緒だったらいいなと思いながら演じていました。

そしたら、原作者の鳥谷コウさんが現場にいらしてくださったときに、僕らを見て「佐原だ!」「土岐だ!」って言ってくださったんです。それは超うれしかったです。役者冥利に尽きるなと思いました。