M&Oplaysプロデュース『サニーサイドアップ』 撮影:引地信彦 M&Oplaysプロデュース『サニーサイドアップ』 撮影:引地信彦

「はえぎわ」主宰のノゾエ征爾が作・演出を手がける舞台『サニーサイドアップ』が、2月21日、東京・本多劇場で幕を開ける。ノゾエにとって本作は、本多劇場初進出作品でもある。

M&Oplaysプロデュース『サニーサイドアップ』チケット情報

嵐山鯛、通称たいくん(荒川良々)は映像や舞台で活躍する俳優。たいくんの家に居候している赤総理先輩(赤堀雅秋)は、ラグビー部時代の先輩で、テレビ局に勤めている。虚言癖と盗癖がある小寺さん(小野寺修二)は、たいくんの付き人。偶然会うことが多い同級生の野々上くん(ノゾエ征爾)は、東京という場所が体質に合わないようだ。そして40歳のある日、たいくんはふとしたきっかけで壁と壁の間に体がハマり、丸1日以上動けなくなってしまい……。

「これはたいくんの大体の一生の物語である」と冒頭で語られるように、本作で描かれるのは荒川演じるたいくんの一代記。それと同時に、彼が生まれる4万年前から彼の死後100年までが、なんとこの2時間に集約されている。と言うと壮大な地球誕生の物語のようにも思えるが、そこはノゾエ作品、決してそんなことはない。目の前で繰り広げられるのは、7人の人物と印象深い関わりを持った、たいくんの日常。それはささやかでおかしくて愛しい、いろいろあったがきっと幸せであったろう、ひとりの男の一生である。

ノゾエが厚い信頼を寄せるたいくん役の荒川は、さすがの安定感。観客の目を引きつけ、物語をしっかりと牽引する。「THE SHAMPOO HAT」の赤堀は、作・演出家だけでなく役者としても抜群の個性を発揮。あの熱量と破壊力は唯一無二だ。一部ステージングも担った小野寺は、本作がストレートプレイ初出演。体を動かしている時はもちろん、演技姿も堂々たるもので、俳優業での今後の活躍にも期待が高まる。はえぎわメンバーからは町田水城、竹口龍茶、富川一人、山口航太が出演。劇団員だからこその呼吸で、ノゾエがつくりたい世界観を自然と体現する。またブレヒト幕を応用した場面転換や影絵を使った背景など、シンプルながら想像力を刺激する、演劇でしか味わえないワクワクが随所に見られた。

隙間にハマってしまったたいくんだが、実はその姿にはあるメッセージが込められている。それを知った時ふと切なくなるのだが、その後たいくんはこんなせりふを口にする。「本当、よく分かんないなぁ」と。そんな軽やかさを持ちつつも、充実の演劇体験を提供できる。やはりノゾエ征爾とは、非常に稀有な才能の持ち主なのである。

公演は3月2日(日)まで。チケット発売中。

取材・文:野上瑠美子