新国立劇場演劇『マニラ瑞穂記』演出:栗山民也 新国立劇場演劇『マニラ瑞穂記』演出:栗山民也

4月3日に新国立劇場で幕を開けた『マニラ瑞穂記』。明治中期、スペインからの独立に揺れるフィリピンを舞台に、希望や挫折に直面する日本人たちのドラマが展開する。演出の栗山民也が本作の魅力について語った。千葉哲也、山西惇、稲川実代子といった実力派のベテラン、新国立劇場研修所出身の若手を迎えた本作。“からゆきさん”と言われる日本人娼婦たちに彼女たちを仲介する女衒・秋岡伝次郎、理想に燃え、海を渡り独立運動に加わった志士たち、領事館のエリートら、それぞれの立場を背負い異国の地に生きる人々の姿が描かれる。百十数年前の決してメジャーとは言えない歴史をテーマにした秋元松代の戯曲をいま、舞台化する意義は? そんな問いに栗山は、歴史認識をめぐる日韓関係や日米間の基地問題、さらには海を越えた世界情勢など、まさにいま、我々が抱える問題に触れつつ「この作品は、“いま”という時代を映した鏡のような物語」と力強く語る。

新国立劇場演劇「マニラ瑞穂記」チケット情報

「独立を勝ちとったと思ったら、実はフィリピンはスペインからアメリカに2千万ドルで売買されていた……という流れなんて、ウクライナにロシアが介入してそれを世界が非難するという構図そのまま。決して過去の歴史を描いた物語ではなく、“いま”を描いた危険な歴史劇なんです」。

その中で主人公・秋岡伝次郎は人情家でカリスマ性にあふれ、時代を駆け抜けるある種の風雲児として描かれる。栗山は、彼が持つ不思議な“引力”を「遅れてきた男」という言葉で表現する。「時代の申し子というよりは、時代から遅れるか、少し先を走り抜けた男なのかな? そうやってずれている奴って魅力的なんです。『何者か?』と言われたら『秋岡だ』としか言えない。そんなハッキリしたアイデンティティを持った男はいまの時代、なかなかいないでしょ? 現代から見て、明らかに間違った男でもあるんですが、そこはしっかりと時代がこの男を裁いています」。

いまの社会で求められる「わかりやすさ」や「明快な解答」とは対極とも言える作品ではあるが、だからこそとも言える「切れ味」や「問いかけ」をはらんでいる。

「いまは文化もメディアも1週間ごとの『週刊誌文化』でニュースもTVも分かりやすい解説や解答しか喜ばれない。でも時間をかけて自分の中で熟すまで考えないと、言葉も文化も育たないし、人間の魅力というのは分からない。その意味でこの作品は、知的好奇心を刺激し、考えさせてくれる作品。歴史の岐路に立った瞬間のゾクッとするような感覚が味わってもらえると思います」。

公演は4月20日(日)まで新国立劇場 小劇場にて上演。チケット発売中。

取材・文:黒豆直樹