『ファイ 悪魔に育てられた少年』(C)2013 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND NOW FILM ALL RIGHTS RESERVED

いわゆる韓流の軽さの一方で、韓国映画にはダークな情念のドラマや、肉体を駆使した本格派のアクションといったヘビーな側面がある。韓国映画はこれらを結びつけるのが上手で、過去にも韓国映画の新しい波を高らかに宣言した『シュリ』を筆頭に、多くの傑作を放ってきた。ともすれば“ベタ”に映る感情の描写も、テンションの高いエンタテインメント性と合致すると魅力に転じる。『ファイ 悪魔に育てられた少年』は、これらの系譜に連なるダーク・スリラーの快作である。

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さまざまな分野のエキスパートがそろった犯罪者5人組に誘拐され、身代金交渉の決裂によって、彼らに育てられることになった幼い少年。ファイと名付けられた彼は、5人の父親たちから犯罪に必要なあらゆるスキルを叩き込まれながらティーンエイジャーに成長したが、悪に染まりきれないジレンマをも抱えていた。やがて“初仕事”の時がやってくるが、それはファイにとって運命の転機となる……。

5人の“父親”に恩義を感じていながらも、実の両親と引き離されたことに複雑な思いを抱えているファイ。愛すべきは、そして憎むべきは実の親か、それとも育ての親か? 映画はそんな彼のギリギリの感情に迫り、観る者の感情をグイグイと引き付ける。閉塞した今の気持ちを打ち破るべく疑問に決着を付けたファイが、手ごわい5人の父親たちに立ち向かうクライマックスは、まさしく悲壮と呼ぶべきだろう。

それをさらにアツいものにしているのが壮絶なバトルの描写だ。格闘や策略、ドライビングテクニックなどを5人の父親から仕込まれているファイ。傷ついても立ち上がり、肉弾戦も狙撃も、綿密な戦略の元でこなす姿は、さながら戦闘マシン。思春期の少年特有の頼りなげな外見とは裏腹に、一度ギアが入るとどこまでも突っ走ってタフネスを発揮する姿が頼もしい。跳ぶ、撃つ、格闘する、そんなひとつひとつのアクションにカタルシスがある。

ダークな情念と激烈な死闘の分かちがたい融合。エモーションとアクションの高濃度での合体。こういう作を見ると、つくづく“韓国映画ってスゲエな”と思ってしまう。

『ファイ 悪魔に育てられた少年』
公開中

文:相馬学