『ぼくたちの家族』 (C)2013「ぼくたちの家族」製作委員会

泣いてしまった。自然に涙がこぼれていた。しかも2度、3度と……。いや、観る前はこの映画についてもし書くことになったら“家族とは切っても切れないやっかいなもの”といったフレーズから始めるつもりでいたし、実際、そうした一面もある。歳を重ねれば重ねるほど、誰もがよくも悪くもそれを実感することになる。

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本作で妻夫木聡が演じた浩介もたぶんそう思ったに違いない。何しろ、妻が妊娠した喜びも束の間、母親に脳腫瘍が見つかり、余命1週間を告げられたのを機に両親の莫大な借金が発覚。なのに、父親はぼんやりしていて頼りにならないし、弟はちゃらんぽらんでことの重大さを分かっていない。すべての災いが長男の彼に突然ふりかかってきたのだから。

でもこれは特別な話ではないし、それこそ親が病気で倒れたら待ったなしだ。遠く離れて暮らしていて、普段あまり連絡をとっていなかったとしても、そのときは帰らないわけにはいかない。親を放っておくわけにはいかない。長男だったらなおさらだが、一方では自分の家族の幸せも考えなければいけない。劇中で逃れられない現実をいきなり突きつけられた浩介が大きく息を吐くシーンが、彼のそんな心のモヤモヤと苦しみ、不安のすべてを代弁する。

本作が素晴らしいのはここからだ。厳しい現実をただ見せつけるのではなく、主人公はもちろん、父も弟もそれぞれのやり方でその現実と向き合い、戦い、そのことで家族がひとつになっていくのが分かるから、観ていて胸が熱くなる。勇気がもらえる。涙がこぼれたのはそのせいだ。

それにしても、石井裕也監督は『舟を編む』のときよりさらに進化&深化している。見せるべきものは見せ、見せなくていいものは見せない。その精度に狂いがない。俳優を血の通った人間として存在させているのもさすがで、それに応えるように、妻夫木聡がどこにでもいる“普通の”長男を過不足なく体現。弟役の池松壮亮も、実は大きなカギを握るそのキャラクターをまんまと演じ、観る者の心を鷲づかみにする。

守るべき大切な家族がいる人はぜひ観て欲しい。そして自分の家族としっかり向き合って欲しい。これは、あなたの家族の物語でもあるのだ。

『ぼくたちの家族』
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