『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』の原作者であるラティフ・ヤヒア氏

イラクの独裁者サダム・フセインの息子、ウダイ・フセインの悪逆非道を、ウダイの影武者になることを強制された男の視点から描いた衝撃作『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』(1月13日(金)公開)。その影武者を務めた本人であり、映画の原作者でもあるラティフ・ヤヒア氏が、ウダイと過ごした悪夢の日々と、祖国イラクへの想いを語った。

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2006年に処刑されたサダム・フセインだが、そのサダムでさえ「生まれてきたときに殺しておけばよかった」と嘆いたというのが長男のウダイ。ラティフ氏は、拷問、レイプ、殺人とやりたい放題を尽くしたウダイを「人間性のカケラもない人物だった」と断言する。「サダム・フセインとならいい思い出があるし、クサイ(ウダイの弟)ともいい関係を築くことはできた。しかしウダイの影武者だった4年半で、1分たりともウダイとの楽しい瞬間など存在しなかった。映画では主演のドミニク・クーパーがウダイの姿をほぼ100%正確に演じているけれど、ウダイの残虐行為については半分も描けてはいない。本当に起きたことをそのまま描けば、観客は5分と座っていられないからね」

ラティフ氏自身も、確たる理由もなくウダイから日常的に拷問を受け、亡命を決意するに至った。当時のトラウマを克服し、「映画みたいに馬に乗って逃亡はしなかったよ」と笑えるようになった一方で、イラクの現状に絶望に近い感情を抱いている。「2003年のアメリカの侵攻ですべてが変わった。アメリカはサダムを一方的に悪人と言うが、サダムが国民のために中東一の道路網を作り、住宅環境やインフラを改善し、医療や教育のシステムを改革したことも事実なんだ。ユニセフでさえもサダムを中東で最高の内政家だと評価していた。イラクの国民も、尊厳と教養を兼ね備え、訪問者を歓迎するのが大好きな幸せな人たちだった。しかしすべてが破壊された今では、わずかな米ドルを得るために親兄弟や友人同士が殺し合うようになってしまった。生まれ育った家も米軍の爆撃でなくなったし、もう自分がイラクに戻ることは考えられないよ」

現在のラティフ氏はアイルランドで暮らし、人権擁護団体のメンバーとして活動を行っている。「20年前に西側に亡命したときには、独裁政権のイラクと違って人権や言論の自由が約束されていると信じていた。しかしCIAに協力しなかったことで私は拷問にかけられ、書いた本は発禁にされ、いまだにどこの国の市民権も得られていない。結局どこの国もシステムが違うだけで、民衆に真の自由は与えられてはいないんだ」と語気を荒げる。

「今も正義とは何なのかを探し求めている最中」と語るラティフ氏の壮絶人生。せめてその一端に、本作を通して触れていただきたい。

取材・文:村山章

『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』

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