舞台『母に欲す』 稽古場より 舞台『母に欲す』 稽古場より

映画監督、外部作品の演出と活躍めざましい演劇ユニット・ポツドールの三浦大輔。彼が作・演出を務める舞台『母に欲す』(ははにほっす)が7月10日(木)から東京・PARCO劇場で上演される。今作は三浦にとって初めての挑戦となる、母親を題材とした物語。主人公の兄弟を演じるのは、映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の峯田和伸(銀杏BOYZ)と、映画『愛の渦』の池松壮亮。ともに三浦が監督を務めた映画で主役を演じたふたりが、三浦にとってホームともいえる舞台に揃って登場する形だ。「今やりたい役者はこのふたりしかいない。この作品を以て一旦演劇に区切りをつけたい」とまで三浦に言わしめる作品は、果たしてどのようにつくられているのか。稽古場を訪ねた。

舞台『母に欲す』 チケット情報

稽古場に入ると、二階建ての一軒家のセットが目に飛び込んでくる。使い込まれたちゃぶ台に年季の入ったソファ。端にある仏壇がひときわ目をひく。兄弟の実の母は、物語の冒頭で亡くなっているのだ。この日の稽古では新しい母(片岡礼子)が階下で料理をしているところに池松演じる弟が帰宅するシーンが繰り広げられていた。三浦はセット正面の自分の座席から度々立ち上がり、ふたりが視線を合わせる瞬間を何度も繰り返す。さらに二階の兄の部屋で話している兄と友人のセリフと、階下の視線が絡むタイミングを調整してゆく。おそらく観客は、一階と二階それぞれの動きをごく自然なものとして捉えるだろう。しかしその一瞬にあまりにも細やかな演出が込められている。

場面が進み、弟が部屋で彼女と電話をするシーン。兄が友人に新しい母についての気持ちを吐露するセリフと、隣の部屋で同じように恋人に新しい母について愚痴る弟のセリフ。そのタイミングを合わせるように指示を出す三浦。「峯田くんは今のまま、自然にやってみてください。池松くん、峯田くんに合わせるように話してみてくれるかな」。そうしてこのシーンが何度か繰り返されていく。すると、別々に発せられたふたりのセリフが、時折まるで兄弟ふたりで会話しているかのように聞こえてくるのだ。

峯田と池松の二人は、三浦の指示を淡々と受け入れ、何度も繰り返す。セリフがないまま移動するシーンで一瞬沈黙が起こり、三浦が笑いながら「何か適当に話してて」というと、ふたりとも照れたような笑顔を見せた。初共演ながら息の合った兄弟の、まるでつくりものとリアルの中間にあるような空気感は、劇場でぜひ体感したい。

公演は7月10日(木)から29日(火)まで東京・PARCO劇場、8月2日(土)・3日(日)大阪・森ノ宮ピロティホールにて。チケット発売中。

取材・文:釣木文恵