河瀬直美監督

いま、これほどの独創的な作品を生み出している映画作家が日本にどれだけいるだろうか? 奈良を拠点にしながら今では世界から注目される存在となった河瀬直美監督。まさに“我が道”というべき“独自の道”を歩む彼女だが、最新作『2つ目の窓』もまた“映画作家・河瀬直美”でしか成しえない1作となっている。

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毎回共通して“自身”と密接に結びつく題材から出発する河瀬作品。まず、この理由についてこう明かす。「若いころは思いました。“いろいろなタイプの映画を撮れるようにならないと”と。でも、あるとき、気づいたんです。私は“自身が心から興味を持ったことしか作品に出来ない。ただ、逆に興味のあることはとことん追求して、いかなる困難があろうとも必ず作品にする“ということを」。

今回も自身の祖先が創作のスタートだった。「自身のルーツが奄美大島にあることを祖母に聞いて、初めて現地を訪れたのが2008年のこと。奄美を直に体感する中で、こんなことを実感しました。“これまで私が作品で描こうとしてきた人間にとっての生と死や、自然と人のつながりといったことを、自然を“神”と崇め、自然と人間が共存する奄美の文化は表現している”と。その体験が今回の出発点です」。

作品は死期が迫りつつある母を持つ杏子と、男の影が見え隠れする母親に嫌悪感を抱く界人が主人公。奄美の風土や巫女である“ユタ”といった古くから伝わる文化を背景に、多感な年ごろであるふたりの高校生が経験する初めての恋と人間としての成長を描き出す。その作品世界を象徴するタイトルには、若いふたりへの想いが封じ込められた。「“他人同士が互いを受け入れ、認め合う”というのが私自身の考える今回の根底にあるテーマ。他人同士のふたりが手を取り合い、一緒に扉を開けると、その先にはきっと素晴らしい未来と世界が広がっているのではないだろうか? これからを生き、時代を築く人たちにそういうひとつの願いを託したことは確かです」。

また、映画作家としての河瀬監督のこんな決意も含まれている。「昨年、カンヌ(映画祭)で審査員としてご一緒したスティーブン・スピルバーグ監督もそうなのですが、いま世界の最前線で活躍されている映画人たちは世界が少しでも良い方向に進むよう尽力されている。それが表現者としての当たり前の使命とでもいうように。私もそうありたいし、その志は私自身も常に心の中にもっておきたい」。

『2つ目の窓』
7月26日(土)より全国公開

取材・文・写真:水上賢治