『ぼくを探しに』(C)2013 EUROWIDE FILM PRODUCTION-PATHE PRODUCTION FRANCE 3 CINEMA-APPALOOSA DEVELOPPEMENT

『ベルヴィル・ランデブー』『イリュージョニスト』など傑作アニメーションを手がけてきたシルヴァン・ショメ監督が長編実写映画『ぼくを探しに』を完成させた。あふれだす想像力を“画”ではなく撮影を通じて描き出したショメ監督の狙いとは? 国際電話で話を聞いた。

その他の写真

ショメ監督はオムニバス映画『パリ、ジュテーム』で短編を手がけたことはあるが、長編実写映画は本作が初めて。本作は『ベルヴィル…』に登場する劇中歌『ATTILA MARCEL』からイメージをふくらませたもので、両親を失って、言葉を話すことができなくなってしまった主人公ポールが、同じアパートに住むマダム・プルーストが入れてくれる“魔法のハーブティ”によって失われた記憶と人生を取り戻そうとする姿が描かれる。

まずショメ監督はアニメ制作と同様、撮影前に綿密に画コンテを作成した。「実写は人を指揮したりする必要があるので映画をつくる上でのテクニック的には違うけど、実を言うとあまり違う所はなかったと思っています。実写で経験したのは誰も病気にならなかったこと。人間は病気になるものだけど、今回はなかった。アニメは何年もかかることも当たり前なので、その間に誰かが病気にかかってしまったり、亡くなってしまったりすることもあります。逆に赤ちゃんが生まれたりもしますしね。今回の撮影で思い通りに行かなかったのは天気くらいです」。

映画を観て驚かされるのは、実写であっても現実の光景とファンタジックなモチーフが混ざり合った“ショメ・ワールド”がスクリーンに映し出されていることだ。さらに生身の俳優が苦悩したり、アクションをする様はアニメーションでは表現できない。もちろん、アニメならではの表現もある。ショメ監督はそのすべてを把握した上で今後も「相互補完的に両方やっていくつもり」だという。「アニメだけでは表現しきれないこともあります。それにアニメは資金も期間もものすごくかかりますから、実写を手がけることで表現したかったことが実現できる、ということはあるかもしれません」。

ちなみにショメ監督は演出だけでなく本作の音楽も手がけるなど幅広いジャンルで活動を続けている。「フランスにおけるアニメ監督の地位は、日本の宮崎駿監督や高畑勲監督ほど高くないんです。日本みたいにみんながアニメに関心をもって尊敬してくれたらいいですね(笑)。この作品が日本でヒットすれば僕の立場ももっと良くなるかな(笑)。現在は『ベルヴィルランデブー』の舞台を作っていて、今年の夏から全国ツアーをやるので、それが成功したら日本にも行きたいです」。

軽快にして独特な語り口と、魅力あふれるキャラクター描写を武器に世界中の映画ファンを魅了してきたショメ監督。今後はアニメだけでなく、実写映画でも数々の傑作をおくりだすことになるのではないだろうか。

『ぼくを探しに』
8月2日(土)よりシネマライズ、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー