都道府県ごとに販売数の予測式を作成し、気温予測データを基に早めの施策を講じた

猛暑の年にはエアコンやビールがよく売れ、寒さが厳しくなれば暖房器具やホット飲料の販売が伸びる……小売の現場で、一部の商品で気温と販売数に強い相関があることは常識となっている。過去の気温データと売り上げの相関分析は盛んに行われているが、気温の予報を日々の店舗運営に反映させることは容易ではなかった。 気象情報をビジネスの現場に役立てることができれば、商品販売の拡大や、在庫の圧縮、従業員の業務負荷の低減など、さまざまな側面で社会の生産性向上につながる可能性がある。気象庁では、昨年3月に「気象ビジネス推進コンソーシアム」を設立し、新たな気象ビジネス市場の創出に向けて民間との連携を強化している。取り組みの一つとして昨年度、家電と清涼飲料の2分野で、気象データを販売計画に活用する実験を実施した。

6月26日発表の報告書によると、昨年秋、気温予測データを利用して販売計画を策定することで、大手家電流通協会の会員店舗で石油ファンヒーターなどの暖房器具、全国清涼飲料連合会の会員社が管理する自動販売機でホット飲料が、販売数をそれぞれ伸ばすことができたという。

ポイントとなるのは、気象庁が提供する「2週間先」までの予測データだ。従来、多くの民間企業では気温の平年値をベースに販売計画を立てていたが、平年値を外れて気温が推移する年の場合、計画の修正が気温の変化に対して後手にならざるを得なかった。2週間先までの気温予測が可能になったことで、実際の気温変化に先立って仕入れや売り場を戦略的に変更できるようになった。

例えば家電分野では、昨年11月18日からの1週間で、前週と比べ4.1度、前年と比べ3.4度と、大きく気温が下がることが予想されたことから、本部から各店舗に石油ファンヒーターの販売強化を指示。店頭在庫を増やし、売り場にPOPを掲示するなどの施策を講じたところ、前週・前年同週と比較して大きく販売数を増やすことができたという。

また飲料分野では、とくに気温の販売への影響が大きい屋外設置の自販機で気温予測データを活用。昨年10月15日の週で気温が大きく低下することが予測されたため、一部の自販機で、コールド飲料からホット飲料への切り替えを早めた。その週には実際にコールド飲料の販売が半減したため、切り替えがまだだった自販機では売り上げが大きく減少したのに対し、早く切り替えた自販機ではホット飲料が伸びたことで全体の売り上げの落ち込み幅を小さく抑えることができた。

気象庁では、大手家電流通協会、全国清涼飲料連合会の協力を得て、2016年度にも気象データの商品販売への応用を模索していたが、昨年度の実験では、単に分析を行うだけでなく、分析結果を販売戦略に反映させたという点で、さらに実践的な内容となった。同庁地球環境・海洋部気象情報課の萱場亙起気象リスク対策官は、「予測データに基づき、販売の現場の方に手を動かしていただき、可能性を実感いただけた」と述べ、ビジネスへのデータ活用の有用性が確認できたとの認識を示した。

大手家電流通協会の高橋修事務局長は、「家電量販店は『電器屋』というより『天気屋』だと言われるほど、天候は業績に大きな影響がある。実証実験に参加した各社の担当者は、仕入れ・広告・店頭などのさまざまな職種だったが、それぞれの業務で活用できるという感想を得た」と話し、現場の販売員も、季節商品の販売促進への有効性を実感しているとした。

全国清涼飲料連合会の瀧花巧一環境部長は、「飲料メーカーはそれぞれ気象データをそれなりに活用していたが、過去データ分析が中心だった。今回は、予測データを活用するために予測の精度が高まる必要があったが、気象庁でスーパーコンピュータの入れ替えがあり、2週間の予測が可能になった」と述べ、提供された予測データは申し分ない水準の精度を備えていたとの見方を示した。

向こう2週間の予測データでも一定の生産性向上効果が確認されたが、実験に参加した両団体とも、さらに幅広い業務や戦略策定に適用するために、より長期の予測が可能になることを今後の希望して挙げている。気象データの産業分野での活用拡大には、精度と予測期間の継続的な改善が求められそうだ。(BCN・日高 彰)

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