アレックス・デ・ラ・イグレシア監督とカロリーナ・バング

この男、いま世界で最も特異な才能を発揮しているフィルムメイカーかもしれない。スペインの鬼才として名を馳せる監督、アレックス・デ・ラ・イグレシア。唯一無比のオリジナルが存在する彼の作品は世界に多くの熱狂的なファンを持つ。まだ知名度の低い日本でももっと注視したい存在だ。

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ヴェネチア映画祭で監督賞を受賞するなど、数々の受賞歴を持ち、輝かしいキャリアを誇るイグレシア監督だが、そんな自身のステータスや名声にはまったく興味なし。いわゆる作家主義やアート系とはまったくの対極をいくサービス精神溢れる作品を一貫して発表している。その点について本人はこう明かす。「僕としては自分から生まれたアイデアをひとつひとつ形にしているだけ。僕としてはただ自分の作りたい映画を作っているだけだよ」

今回同時公開となる2作品でも彼のスタンスは変わらない。『スガラムルディの魔女』では人食い魔女の聖地に迷い込んでしまったドジな強盗団ご一行の必死の逃亡が、『刺さった男』では頭に鉄筋が刺さり動けなくなった元エリート広告マンの運命がとてつもないテンションで描かれる。一見すると奇想天外にして荒唐無稽。でも、そこに現代社会への警報ともとれる痛烈なメッセージが隠されていたりもする。このイグレシア監督ならではの独自の世界観について、彼のミューズにしてパートナーでもある女優のカロリーナ・バングはこう語る。「彼のイマジネーションが反映された脚本には毎回驚かされるわ。役者として言わせてもらうと、彼の脚本は読んだとき、実際に演じているとき、出来上がったものをみたときの3度ともまったく印象が変わるの。だから演者としては役作りをどうとかではなくて。もう彼に身を捧げるしかないのよ(笑)。『スガラムルディの魔女』ではパンクな魔女を、『刺さった男』では主人公を取材しようとする女性記者を演じたけど、どちらも“私はどこに連れて行かれるの?”といった感じだったわ(苦笑)」。一方監督はこう語る。「今回、カロリーナは2時間もワイヤーに吊られっぱなしでいたことがあった。このようにね、僕の作品の撮影はハードで無茶な要求もするから(苦笑)。信頼できる俳優じゃないととてもじゃないけど任せられない。だから毎回同じような顔ぶれが揃うんだ」

あのクエンティン・タランティーノも絶賛する才人、アレックス・デ・ラ・イグレシア。その作品世界は体感しないともったいない!

『スガラムルディの魔女』『刺さった男』
11月22日よりヒューマントラストシネマ渋谷にて上映

取材・文・写真:水上賢治