キャラメルボックス クロノス・ジョウンターの伝説『クロノス』 撮影:伊東和則 キャラメルボックス クロノス・ジョウンターの伝説『クロノス』 撮影:伊東和則

今年、劇団結成30周年を迎えたキャラメルボックスの、アニバーサリーイヤー第1弾となる公演が2月21日、大阪・サンケイホールブリーゼにて開幕した。演目は、人気の『クロノス・ジョウンターの伝説』シリーズで、10年ぶりの再演となる『クロノス』と、新作『パスファインダー』を2本立てで上演。異なる雰囲気の2作ながら、どちらも熱量の高いステージが展開されている。

キャラメルボックス クロノス・ジョウンターの伝説 チケット情報

SF作家・梶尾真治の短編小説を原作にした『クロノス』は、2005年に上演された作品。物質を過去へ飛ばせる機械、クロノス・ジョウンターをめぐるタイムトラベルものだ。主人公は、機械の開発に携わる吹原(すいはら)和彦。ある日、想いを寄せる蕗来美子(ふき・くみこ)が勤める花屋に、タンクローリーが衝突。吹原は彼女を救うべく、クロノスに乗り、事故が起きる直前へと自分自身を跳ばした…。ひとりの男が、大切な人を守るために奔走する純粋なラブストーリーは、キャラメルボックスの真骨頂だ。“不完全なタイムマシン”に乗り、何度も失敗し、体力を消耗しながら愛する人を助けようとする吹原。その吹原に扮する畑中智行の全身全霊の熱演が、観る者をグイグイと惹き込み、心を揺さぶる。

一方の『パスファインダー』は、脚本・演出家の成井豊が書き下ろした新作。39歳の研究員・笠岡光春が、23年前に亡くなった兄の秋路(しゅうじ)に会うため、タイムスリップする物語。キャラメルボックスが得意とする“家族”の絆を軸に、そこで出会った少女リンとの不思議な縁が描かれている。39歳になっても「世界を変えるような発見」もできず、焦燥感に駆られる光春。しかし彼が過去に戻ることで、いろんな人の人生や心境に影響を与え、自分自身も変わっていく。岡田達也がその光春の姿を丁寧に表現している。また、客演に迎えた陳内将が、周囲から理解されずとも、やりたいことに突き進む秋路を好演。ナチュラルにキャラメルボックスの世界観に溶け込んでいる。

両作とも、テンポ感の良さが心地良い。主人公はほぼ出ずっぱりで、ライティングの切替えを駆使しながらシーンを展開。緊迫感の中にも随所に笑いを交え、緩急つけた演出で楽しませてくれる。西川浩幸はクロノスに人生のすべてをかける研究者・野方役として、どちらの作品にも出演。同じ役ながら、『クロノス』ではピリッと舞台を締め、『パスファインダー』ではコミカルさを交えて柔軟に演じ分け、ベテランの貫録を見せる。

また、『パスファインダー』では、秋路のセリフに劇団の想いを重ね、30周年を迎えたキャラメルボックスの演劇への熱を改めて観客に提示。演劇の力を信じるキャラメルボックスのブレない姿勢に、今後も期待したい。

大阪公演は25日(水)まで。東京公演は3月6日(金)から22日(日)までサンシャイン劇場にて上演。チケット発売中。一部のぴあ店舗ではハーフプライスチケットの取り扱いもあり(詳細は公式HPに掲載)。

取材・文:黒石悦子