【音楽】中村一義、10年ぶりソロ作は“一緒に歌いたくなる”

2012.2.27 6:00

中村一義約10年ぶりのシングル『運命/ウソを暴け!』。歌が本来持つプリミティブな力だったり、広範囲を打ち抜くポップ性に中村のもつ巨大な才能を再認識できる楽曲だ。

聴く者を突き動かす力を持った音楽がある。例えば、聴いているとなにか新しいことに挑戦したくなったり、いまの自分を変えたくなったり、もう少し前を向きたくなったりと、心に訴えかけるものもあれば、聴いてると走り出したくなったり、叫びたくなったり、飛び跳ねたくなったりと、直接肉体に訴えかけるものもある。以前どこかのインタビュー記事で、銀杏BOYZの峯田和伸が「ヒロトの声を聴いているとムラムラする」というようなことを言っているのを読んで、そういえば自分は峯田の声を聴くとムラムラするなあ、と気付いたことがある。峯田はまさか男の自分をムラムラさせたくて曲を作ってるわけじゃないだろうし、そんなことを言われても迷惑かもしれないけれど、自分は例えそれがムラムラだとしても、自分の心や体の深い部分をグンと突き動かしてくれる音楽が好きだし、いつもそんなパワーを持った音楽を探している気がする。

中村一義という人は音楽家として“普通”とか“常識”といった部分が何ひとつない、すべてにおいて特殊な感性と才能を発揮し続けている人で、だからデビュー以来、常に天才という呼び名を欲しいままにしてきた。先日発売された、ソロ名義では約10年ぶりのシングル『運命 / ウソを暴け!』に収められた2曲は、そんな中村一義の音楽性がとてもわかりやすく提示されている。

まず『ウソを暴け!』は、キャリア初期を髣髴させる、スタンダードで普遍的なメロディメイカーとしての才能が発揮された、優しくあたたかなロック・バラード。陽だまりのようなサウンドに寄り添う中村のボーカルもじつに穏やかなのだが、その声で発される言葉は極めて鋭利だ。サウンドのあたたかさと言葉の鋭さという対比によって、メッセージの切実さがよりビビッドに伝わってくる。


対して『運命』は、打ち込みのブレイクビーツに乗せ、より強烈なメッセージ性を持った歌詞が矢継ぎ早に放たれるアッパー・チューンだ。中村一義の歌詞やメッセージについてはデビュー以来多く語られてきており、雑誌インタビューなどでも読むことができるので、今回は割愛。個人的には、譜割り(メロディやリズムに対する言葉の乗せ方)のセンスこそ、彼の最も大きな、そして最も特殊な才能だと思っている。デビュー曲である『犬と猫』の冒頭で発される「どーう? どーう?」に代表されるように、キャリア初期からすさまじいオリジナリティを誇っていたのだが、この『運命』という曲の言葉の乗せ方は群を抜いてすごい。まず歌詞そのものがこれまでの楽曲と比較してもぶっ飛んでいる。ほぼ散文と言っていいほどのフリーフォームさで書かれたAメロの歌詞のラジカルさは、あたかも聴き手の安易な“理解”や“共感”を拒むようだ。しかしそこからサビで「思い出せ!」という強くストレートな言葉のリフレインを畳みかけ、一気に聴き手の意識と視界をこじ開け覚醒させていくさまは、中村一義の真骨頂と言えるだろう。


ここで話の最初に戻ると、自分は中村一義の音楽を聴いていると、どうにも「一緒に歌いたくなる」のだ。実際、『運命』を聴きはじめてから、いつでもどこでも気付けば「♪こーら、こーら、こーら」と口ずさんでいる自分がいる。その理由は単純で、彼の曲は歌ってみると、めちゃめちゃ気持ちいいのである(同時にめちゃめちゃ難しくもあるが)。今回の『運命』のように字面だけを追うと時に難解さを感じてしまう歌詞でも、音と一緒に聴くと、頭でっかちな思考回路を飛び越え、ダイレクトにメッセージが刺さってくる。それは彼の楽曲が、歌の持つ根源的な快感を高いレベルで備えているからだと思う。彼の唯一無二な譜割りの才能は、その詞世界にフィジカルなエネルギーを与えている。だからこそ中村一義の楽曲は観念的なフィールドに納まらず、歌が本来持つプリミティブな力だったり、広範囲を打ち抜くポップ性を持ち得ているのだと思う。

思えば、自分が『1,2,3』という曲で初めて彼の音楽に触れたときもそうだった。ラジオから流れてきたその曲は正直、何を歌っているのか正確には分からなかったが、とにかく音と言葉のハマリが気持ちいい未知の快感を持ったロックであることと、ときどき聴き取れる言葉の断片から、とにかく“なにか大事なこと”を歌っているんだということは直感的に分かった。で、次の瞬間にはエアチェックした放送を聴きながら意味も分からず「♪うぇいにはいまも~か~らずにあ~るはっきのそ~が~」と歌いだしていたのだった。余談だが先日、伊集院光の深夜ラジオを聴いていたら、フリートークの後にいきなり『運命』が流れはじめてびっくりした。ラジオから中村一義の音楽を聴くのは久しぶりだったけど、彼の音楽はラジオという“公”ながら“個”に向けて発信される場において、よりいっそう輝きと鋭さを増して、聴き手である自分に刺さってきた気がした。あの放送で彼の音楽にはじめて触れた人たちの心にも、きっと何かを残したんじゃないかと思う。

今年でデビュー15周年を迎え、3月28日(水)には石野卓球、やけのはら、ナカコー、FPM、DE DE MOUSE、曽我部恵一という面々によるリミックス盤『6 Remix’n Birds』をリリース。年末の12月21日(金)には久々の日本武道館公演を控えている。そしてなにより、このシングルを経て表現される新たな世界=アルバムの発表を待ちつつ、しばらくは「♪こーら、こーら、こーら」と口ずさむ日々が続きそうだ。あ、『運命』の話ばかりしてしまいましたが、『ウソを暴け!』も文句なしの名曲なのでお忘れなきよう。

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