庶民のミュージック・ラバーにとって頼もしい味方、それがコンピレーションアルバム、いわゆるコンピ盤だ。なんてったっていろんなアーティストの曲が聴けるし、それでいてお値段はリーズナブル。音楽の趣味の幅を広げるにはもってこいのアイテムである。

しかしコンピ盤の魅力は単にコスパだけにあらず。近々にリリースされた中から、思わず聴きたくなる個性派コンピ盤をピックアップしてみようと思う。まずはこちらから。

 

■その1
『違いがわかる大人のCMソング NESCAFE CM Song Collection』

ビクターエンタテインメント 2,300

いきなりのキラーコンテンツと言える本作。まずは何も言わずに曲目をご覧あれ。

1.『めざめ』伊集加代子
2.『やすらぎの時―DABADA』中川共
3.『DABADA』小野リサ
4.『DABADA』錦織健
5.『DABADA』松崎しげる
6.『DABADA』EPO
7.『DABADA』もんたよしのり
8.『DABADA』マリーン
9.『DABADA』白鳥英美子
10.『DABADA』石川さゆり
11.『DABADA』Baby Boo
12.『テイスト・ザ・ラヴ』テッサ・ナイルズ
(以下とりあえず略)

とりあえず途中までだが(ちなみに全25曲です)、のっけからまさかの『DABADA』10連発! 出し惜しみ一切ナシ、美味い部分から食わせまっせという姿勢が、「♪DABADA~」への相当な自信を窺わせる。というか、あれ『DABADA』って曲名だったのか! という新鮮な驚きも。しかも歌っているメンツがまた特濃。松崎しげる→EPO→もんたよしのり→マリーンの流れは、本作におけるひとつのハイライトである。しかしこれ以外にも渡辺美里の『やさしく歌って』や、弘田三枝子の『ネスカフェ43粒スプーンに一杯』(タイトルセンス最高)、さらには雪村いづみやロジャー・ニコルスまで参加するなど、気になるトラックが次々に飛び出すので、最後まで油断は禁物だ。ネタとして楽しむのももちろんアリだが、いちメーカーのCMソング集でここまでのバリエーションとクオリティを生むことができるのだという、ネスカフェの底力を感じられる仕上がりとなっている。『DABADA』だけじゃなく「あ、この曲あったあった!」のオンパレードだし。あえて言うのも恥ずかしすぎるが、まさに違いのわかる大人だからこそ楽しめる、奥深いコンピ盤である。

■その2
『100年後の日本人に残したい…ムード歌謡 名曲特撰』
『100年後の日本人に残したい…デュエット歌謡 名曲特撰』

テイチクエンタテインメント 各3,000円

 ここまで書いて気付いたが、コンピ盤の特徴として、「読んだだけで正確に内容が伝わるタイトルであること」というセオリーがある気がする。『違いがわかる大人のCMソング NESCAFE CM Song Collection』もそうだし、次に紹介する『100年後の日本人に残したい…ムード歌謡 名曲特撰』なんてまさにそうだ。さてこのコンピ、まず「100年後の日本人に残したい…」というコンセプトがいい。自分はよく「富士そば」に行くのだが、あそこっていつもムード歌謡とか演歌とかが流れているじゃないですか。普段演歌なんて一切聴かないのに、「富士そば」で聴くと、なんであんなに落ち着くんですかね。で、この前ふと思ったんです。この歌謡曲や演歌に癒される「富士そば的空間」って、果たして何十年後の未来にも残っていくものなのかな、って。数十年後、それこそ100年後には、ムード歌謡でも演歌でもないなにか別の音楽が流れる「富士そば」になってしまっているんじゃないか、って。……長々と意味不明のですます調ポエムを綴ってしまったが、結果的にこのコンピ盤を前に思うことは「この歌たちは100年後にも残っていくはず!」という漠然とした確信である。いまのヒットチャートに並ぶ楽曲に比べて、総じて歌としての強度が高すぎるし、あと基本的にみんな歌がうまい。時代ごとに“歌のうまさ”の概念は変われど、例えば「八代亜紀は歌がうまい」という概念はこの先軽く5000年くらいは揺らがないと思う。そんないかんともしがたい強さをもった曲ばかりを、それぞれ2枚組・34曲入りのボリュームでまとめられると、「大丈夫っす! みなさんの歌は100年後も残るっす絶対!」と、根拠はないがそう断言したくなる。そしてそんなパワーを持ったコンピにも関わらず、「残したい…」とどこか謙虚な姿勢なのも、また好印象だったりする。曲を知っている世代は素直に名曲集として楽しめるし、歌謡曲にまったく馴染みのない若い子が聴いたら、意外と未来の音楽に聴こえたりして。ちなみにこの後も演歌編、股旅編なども登場予定。

■その3
『東京こんぴ』

ビクターエンタテインメント 2,300円

最後に紹介するのは、その名の通り『東京』というタイトルの楽曲を集めたコンピ盤。まずこのコンピを作った人すごい。どこがすごいかと言うと、「『東京』っていうタイトルの曲には名曲多いよね。じゃあそれで1枚コンピ作ってみよう」という視点の面白さもさることながら、実際にできたものが、アルバムとしてちゃんといい作品になってるのがすごい。ただ名曲を並べただけでは、「お得なコンピ」にはなっても「傑作コンピ」にはならないので。収録アーティストは楽曲収録順に、くるり、eastern youth、倉橋ヨエコ、GOING UNDER GROUND、サニーデイ・サービス、BEGIN、小谷美紗子、□□□、Base Ball Bear、ガガガSP、GO!GO!7188、THEラブ人間、毛皮のマリーズと、ロック血中濃度高めの人選。このメンツを集めただけでコンピとしての聴きごたえは保障されたも同然と言えるが、そこに“東京しばり”を加えたことで、さらなる奥行きが生まれている。アーティストそれぞれの“東京観”を比較しながら聴くのが「コンピ盤の楽しみ方」としては王道なのかもしれないが、このコンピに関してはそれぞれの『東京』の世界に浸りつつ、ひとつのアルバムとしての流れをじっくりと味わうのが最も適した楽しみ方だと思う。東京というモチーフに何重にも想いを重ねた重量感のあるナンバーが並ぶ中で、電車のアナウンスを軽やかにサンプリングした□□□の『Tokyo』がいいアクセントになっていたりと、絶妙な選曲がいい感じなのだ。本作収録曲以外にも『東京』という曲はまだまだたくさんあるので、続編にも期待したいところ。

とまあ、ひとくちにコンピ盤と言っても、これだけのバリエーションがあるのだ。このご時世、限られた予算の中で興味の範囲外の音楽に手を出すハードルは、どんどん高くなっていると思う。でも今回紹介したコンピ盤は、すべて3,000円以内で買えるもの。賢くコンピ盤を利用すれば、より充実した音楽ライフを送れるはずだ。